木村仁良さんの解説によると、エドワード・D・ホックは2008年1月17日に亡くなられたが、950篇以上の短編小説を発表されている。ミステリ業界において短編小説の執筆だけで生計を立てていたのはホックだけだそうだ。木村さんが書いておられるように、まさに〈現代短編の名手〉だと思う。
本書には1957年発表の「フレミング警部最後の事件」から79年発表の「ガラガラヘビの男」まで発表年度順に20篇が収録されているが、すべておもしろい。
わたしは10数年前までホックの熱心な読者ではなかった。私立探偵ものを追いかけるのに必死だったから、父と弟からまわってきたのを読むだけでとりたててファンということはなかった。その後、木村さんに教えていただいて「怪盗ニックの事件簿」「サム・ホーソーンの事件簿」「サイモン・アークの事件簿」の愛読者となった。父も弟もいまはいないけど、こんなにたくさんのシリーズを読ませてやりたかった。ただ弟の娘がなぜかホックファンで、本書を買ったのも彼女のほうが早かった。
本書「夜の冒険」を買うのが遅れたが、読み出したら一気で、次から次へとフルスピードで読み上げていった。全部読んでから味わって二度目を読んでいる。
都会的でおしゃれでとぼけたところがある、というのがわたしのホックについての感じだ。なんでこんなにストーリーを思いつけるのかしら。そして登場人物たちが必然的に自然にその場にいる。
「どこでも見かける男」「私が知らない女」の2篇は、人の良い男が妻にころっと騙されている話だ。妻という立場の普通の女性の怖さがさらっと書かれていてコワイ。
空き巣泥棒にはまっていく若い女性の気持ちを穏やかに書いている「二度目のチャンス」は、自然に不気味。
「やめられないこと」では、一人の男が妻を殺した男を捜している。ボルネオでゴム園を経営していた夫妻は日本軍がパールハーバーを攻撃してから、捕虜になり男女別別の収容所に入れられた。妻は最後にセレベス海の捕虜収容所に送られた。そこの所長が日本人将校ケン・スーだった。ケン・スーは敗戦時に自分の悪行の目撃者を殺して逃げ切った。男は妻の仇のケン・スーを探しまわってついに発見した。皮肉な最後がつらい。
どの作品をとっても〈都会的でおしゃれでとぼけたところがある〉裏側に不気味さがちらつく。
(木村二郎他訳 ハヤカワ文庫 1000円+税)