ヴィク・ファン・クラブ サイトのミステリーページに岡田春生さんの「古代史ミステリー」をアップした。その中で触れられているジョセフィン・テイ「時の娘」はミステリーの名作中の名作として名前だけは知っていた。岡田さんはそれを翻訳書が側になかったので原書を読んだと書いておられる。こちらは残念ながら英語が読めないので小泉喜美子さん訳の文庫本を買って読んだ。この本が書かれたのは1951年、作者が亡くなる前年の作品である。
主人公グラント警部はケガをして入院中で、ベッドの上で時間をもてあましている。女優のマータが見舞いに来て人物の肖像画をくれる。その中にあったリチャード三世の顔にグラントは魅せられてしまう。
わたしはイギリスの歴史に知識も興味もなかった。でもリチャード三世という名は薔薇戦争のときのめちゃくちゃ悪いヤツというくらいは知っていた。本書には本編に先立って「薔薇戦争」についてのアンドレ・モーロアの「イギリス史」の一節と系図があって親切だ。
グラントは突然リチャード三世に興味を持ち歴史書を調べ出す。マータが役に立つと歴史研究生のキャラダインを紹介してくれたので、彼に頼んで古文書なども調査する。ベッド探偵と調査員の関係ができあがった。グラントの警官としての態度は、殺人によって誰が得をしたかという現実的なもので、文書を調べて結論を導き出していく。ロンドン塔に幽閉されていた二人の王子を殺したとされていることにも疑問を持ち、論理的に結論を導き出す。
最後に退院するときの看護婦との会話が暖かくてよい。わたしもリチャード三世に思い入れをするようになってしまった。こんな縁ってあるんやな。本の扉に〈真理は時の娘─古い諺─〉とある。(ハヤカワ文庫 600円+税)