「ジュネ伝」を読んでいると、知った名前がたくさん出てくる。その人についてあれこれと思い出すのが、この本を読む楽しみのひとつになった。いま読んでいるのは、ジュネがロンドンに行ったところで、ローリングストーンズについての考えや、デヴィット・ボウイと待ち合わせたときのケッサクな話があっておもしろい。
そんな中でもマリア・カザレスの名前が出てきたときはときめいた。わたしがマリア・カザレスの映画をはじめて見たのは「オルフェ」(1949)だった。ジャン・マレー扮するオルフェを支配する死の女神みたいな役で、冷徹な美貌はそれまでの知識では例えるものがなかった。もっともその映画を見たときのわたしは中学生だったんじゃないかしら。
そのだいぶ後で「パルムの僧院」(1947)を見たのだが、またまた大ショックだった。パルムのサンセヴェリナ公爵夫人(カザレス)はナポリから帰ってきた美貌の甥ファブリス(ジェラール・フィリップ)を秘かに愛してしまう。ファブリスは無鉄砲に人を殺して捕らえられる。刑務所長の娘クレリアが獄中のファブリスに恋する。政治と恋がからんで複雑な物語なんだけど、私はひたすらマリア・カザレスの姿を眺めていた。こんなに美しい大人の女性っているのかと思った。最後にファブリスを助けるために、パルマ公国のえらいさんに身をまかせることを決心する複雑な表情に惚れ惚れした。鏡に映る自分を見ている表情のすごかったこと! 若くて美人のクレリアなんか小娘だと思った。
「ジュネ伝」のカザレスはジュネの芝居「屏風」に出演することになるのだけれど、稽古中にいきづまり、ジュネと会って話し合う。そして役を生きることをつかむのだ。なんかすごく感動してうれしくなった。