「カフェー小品集」は実在のカフェーに、客である「僕」と、僕が愛する「君」の物語が展開するユニークな短編小説集である。
わたしは自分が行ったことがあり気に入っている、京都の「フランソワ」と小樽の「光」の2編を読んだんだけど、行ったことのないカフェーの物語はまだおいてあった。知らないお店ということで、ちょっと取っ付きが悪かったのね。ようやくその他の物語を読んだのだが、頑固に昔ながらの営業を続けるカフェーを舞台に、恋愛論を恋の物語にして展開しているのがおもしろかった。今風のカフェでなく、頑固に古風なカフェーなのである。だから恋も古風になる。古風ということは古くさくてダサイということではもちろんないのよ。
どこでもぱっと開いたページに気に入った言葉があるのだけれど、いま紹介するのは、鎌倉市にある「ミルクホール」というカフェーのお話。ここは経営者が普通の民家を自分の手で改装したという。漆喰塗りの壁の話をしていて「素人だからこそ出来る嘘のない仕事の贅沢さを大切にしたいんです」という店主の言葉に、「僕」は自分の恋について考える。ぎこちなくていい、不器用でいい、いつまでも恋愛の素人でいいじゃないかって。
そこで恋愛についていろいろと述べているのを、全文引用したいところだけど、文章の最後のところだけ引用します。ここがいちばん気に入ったので。
【・・・でも僕は戦うのです。それが負け戦だと解っていても僕は戦う、素人だから。結果が出せるかどうかが問題ではないのです。素人の戦いは戦うこと自体に意味があるのです。】
これは恋愛だけではないわ。野ばらさんの文章にはすごいものがある。(小学館文庫 476円+税)