怪盗ニック・ヴェルヴェットものの短編集第4作である。ニックは価値のあるものは盗まないという、思想をもったおかしな泥棒である。長い間連れ添っているグロリアというガールフレンドがいる。最初は職業を隠していたが、ある事件のときにわかってしまい、いまはグロリア公認で泥棒家業を続けている。グロリアは罪滅ぼしのためにボランティアをしているそうな。
3作目まではニック一人の活躍だったが、今回は商売敵として知り合い、だんだん相手を認め合う仲になった女怪盗サンドラとの共演である。サンドラの名刺には「白の女王 不可能を朝食前に」とだけ書いてある。そして、ほんとにサンドラは小気味よく朝食前に盗みを完了するのである。
ニックと違ってサンドラはなんでも盗む。ニックの知り合いの依頼人の仕事を彼女はうまくやるが、ニックが一枚上のところを見せる一番目の「白の女王のメニューを盗め」。泥棒に入ったら死体があり、殺人犯として捕まったニックをサンドラが留置所から救い出す「紙細工の城を盗め」。こればっかりは自分には無理とニックに応援を頼む「禿げた男の櫛を盗め」。2人が入り混じっての泥棒仕事がアホらしいけどおもしろい。
2人は好敵手であるが、友情がそれ以上のものになることがある。またニックのガールフレンドのグロリアの感情もおもしろい。ニックが警察に捕まったとき、敏腕の弁護士を頼んでみたものの、これではあかんとグロリアに留置所からのニックの奪還を頼むのである。
毎度楽しい木村さんの解説によると、1983年にサンドラ・パリスが「白の女王のメニューを盗め」で登場した。そして前年の1982年はサラ・パレツキーの「サマータイム・ブルース」で、ヴィク(V・I・ウォーショースキー)が登場していた。ホックは地味な作風みたいだけど、鋭い時代感覚をちゃんと持っている人なのである。(ハヤカワ文庫 860円+税)