3冊目になった「サム・ホーソンの事件簿」はますます楽しい短編集である。最初はとっつきにくかった1930年代という時代にも、ニュー・イングランドという場所にも慣れて余裕を持って読んでいる。物語は高齢になったホーソーン医師が、若者に語りかけるかたちになっている。ひとつの物語の最後は「うん、その話は次回にしよう」となるので、これ一編だけ読んであとはまた明日と思っているのに、次を開いてしまうのである。そしたら今度は御神酒(おみき)を訪問者のグラスについで語りだす。強い意志がないと読むのをやめられない。
サム・ホーソーンは開業医で10年以上も看護婦のエイプリルと一緒に仕事している。地域になにか犯罪が起きるとレンズ保安官とともに事件の解決に取り組み成果をあげる。エイプリルとは気が合うのに仕事上のつきあいだけで、30代の半ばというのに独身である。
当時は禁酒法がまだ施行されていて、撤廃されたのが1933年12月5日火曜日のことだった。ホーソーンの住むノースモントでの解禁日のことが「密封された酒びんの謎」にくわしく書かれている。もちろん、その夜に派手に事件が起きる。
事件にのめり込みすぎて患者をないがしろにしたことがあり、反省して医者の道にせいを出していても、死体が目の前に現れる。そして保安官に頼りにされる。旅に出ても同じことで、クリスマス休暇でケイプ・コッドへ行く途中でも、新しい車でエイプリルとメイン州へ行っても死体と出くわす。
わたしがいちばん興味を誘われたのは「窓のない避雷室の謎」。当時は家の中に避雷室という窓のない部屋があって、雷が鳴ると全員その部屋へ入って雷をやり過ごしたらしい。その部屋を一度見てみたいものだ。
エイプリルはメイン州のホテル経営者と仲良くなるが、ホーソーン医師はまだ独身である。生涯独身なのかしらと思っていたら、木村仁良さんのあとがきに1941年に美人の獣医と結婚したとあってほっとした。次巻が楽しみ。(創元推理文庫 860円+税)