「シャーロック・ホームズの愛弟子」シリーズの5冊目を読み終えた。5冊目だけど年代順になってなくて、1冊目の物語で「余話」となっていた部分なのである。
1冊目で主人公メアリ・ラッセルはホームズとサセックスの丘陵で知り合う。メアリは15歳だった。両親と弟を事故で亡くして一人残ったメアリは叔母と同居しているのだが、そりが合わずいつも外に出て本を読んでいた。草原にいたホームズの足を踏んづけたのが縁で話をし、ホームズの家でお茶をよばれる。素晴らしい才能を認められて即ホームズの弟子となり、ハドスン夫人にも可愛がられて教育され成長するのである。
見習い期間のように村で起こった事件を解決したメアリは、上院議員の娘の誘拐事件でも目覚ましい働きをする。そのあとでホームズとラッセルそしてワトソン博士までにしかけられた大きな犯罪があり、その途中に「余話」があって、こういうことがあったと記されているわけだが、その話を1冊の物語にまとめたのが本書である。最初からこの物語を書くように計画されていたのだ。ローリー・キングはスケールが大きい作家だと改めて感心した。
ラッセルとホームズは1918年、第1冊目に書かれている事件から一時的に退却するために、ホームズの兄マイクロフトが提案した土地5カ所の中からパレスチナを選ぶ。港で出迎えたのは二人のアラブのベトウィン、マフムードとアリーだった。メアリとホームズはベトウィンの父と息子に変装して一緒に各地を旅する。このへんのことは、わたしの知識は映画「アラビアのロレンス」しかない(ロレンスは本書の中に登場する)。記憶を総動員してあのときのイギリスの指導者はアレンビー将軍だったと思い出した。400年にわたる支配を続けたオスマントルコに劇的な勝利をおさめたイギリス軍だが、占領直後のパレスチナには不穏な空気が流れている。出迎えたベトウィン二人もまたイギリス軍の密偵で、各地の情報を集めているのだった。
メアリ・ラッセルとホームズの物語を楽しんだだけでなく、歴史の勉強にもなり、現在のパレスチナ紛争の元になったイギリスの三枚舌外交のことも、具体的にわかったのがよかった。
アリーが殴られそうになったときに、メアリがかばおうとするところがあって、アリーは戸惑う。そして言う。「女は戦わないものだ」。それに対してメアリは「この女は戦います」と返事し、ホームズは「この女性は戦う」と請け負う。いい感じ。女性を舐めていたマフムードとアリーが最後に本当の同志として認めるところもよい。認めざるを得ないというところから、認めるまで行く道は長いけど。(集英社文庫 838円+税)