ダークなユーモアに戦慄させられた「斧」「鉤」に続く文春文庫のウェストレイクもの3作目である。「80年代の伝説の名品、ついに翻訳成る!」と帯に書いてある。
今回の舞台はハリウッド。アカデミー賞に輝いた大スター、ジャック・パインは豪邸の中庭でインタビューを受けている。小ぎれいだがさえない男が手帳と鉛筆を用意して待っている。ジャックが16歳のときの出来事から話が始まり、各章が「フラッシュバック」と分けられて1から27まで続いていく。各章が映画の1シーンのようになっていて読みやすい。
保育園で出会った親友のバディーはジャックをいつもリードしていて女の世話もする。ジャックは学校の演劇で役になりきる才能があるのがわかる。21歳の二人は別々のバスに乗り、ジャックはニューヨークに行く。俳優の道を進んでいるとき、海兵隊からもどったバディーがやってきてそれからの生活にからんでくる。結婚、ハリウッドでの成功と話を進めていくうちに、ジャックはぼーっとなり、その度に召使いが飲み物やクスリを飲ましにくる。スターは召使いや会計士などたくさんの人を率いた軍団のボスだとジャックは言う。
何度かの結婚と離婚など、ここで書きたいことがいっぱいあるのだけれど、それは読んでのお楽しみ。わたしは二度目のインテリの奥さんが好きだ。そしてジャック・パインにマーロン・ブランドを当てはめて読んでいた。もちろん本物のマーロン・ブランドにこんなことはあるはずないけど、ハリウッド大スターの感じが似ているような気がする。最後までおもしろく読めて、結末にあっと驚く。往年のハリウッド映画が好きな人には、こたえられないおもしろさがあると思う。献辞だっておしゃれ(わたしにはわからない人もいて解説を読んでわかったのだが)。
相変わらず木村仁良さんの解説が楽しい。ウェストレイクがリチャード・スタークという別名で書いた「悪党パーカー/人狩り」が映画化されたのが「殺しの分け前/ポイント・ブランク」なのだが、わたしはこの映画を封切りで見たのが自慢なのである。リー・マービンとアンジー・ディキンソンが出ていて、ものすごくスタイリッシュな映画だったが、そのことも書いてある。またここで知ってうれしかったのだが、ウェストレイクはアメリカ私立探偵作家クラブから去年10月に功労賞をもらったそうだ。タッカー・コウ名義で書いた「刑事くずれ」シリーズが功を認められたのだろうか、と書いておられる。このシリーズ大好きで大切に持っているのでうれしい。(文春文庫 714円+税)