プールに行くとき渡る橋は松島橋。川幅が狭いから橋は短いし横幅も狭い。それまで2年半ほど行っていた下福島プールは、堂島大橋前のバス停で降りて堂島大橋を渡っていた。堂々たる橋だったから、あまり橋を渡っているという感じがしなかった。西プールに行くようになって松島橋を歩いていると、橋を渡っている気分になる。見渡せばマンションやビルばかりだが、どこか下町っぽくて懐かしい気持ちになる。
今日は風が冷たかったけど、日差しが明るくて川面がきらきらしていた。立ち止まって眺めていたら、突然「春で、朧で、御縁日」という言葉がひらめいた。泉鏡花「日本橋」の一節である。帰ってすぐに本の山から引っ張り出した。岩波書店から出ている全集の二六巻である。
ひな祭りの翌日で縁結び地蔵の縁日の夜、医学士の葛木は日本橋の上から紙包みを水に投じる。そのまま去ろうとすると巡査の笠原に止められる。その包みの中身を疑われたためで、詰問されて「あれは栄螺と蛤です」と答える。そこへ通りかかった芸妓のお孝が身元を引き受けようとして、葛木の名前の後から「おなじく妻と書いて頂戴な」と言い切る。めちゃくちゃ粋な出だし、そして義理とお金にからまれた世界で、愛と正義に生きようとして苦悶する人間の物語がはじまる。
この泉鏡花全集が出たのが1975年だからもう30年前になる。予約して届いた順に全部読んだんだなぁ。いまみたいにパソコンはないし、仕事は忙しかったけど、本を読む余裕はあったんだ。