半分読んだところで数日おいたらリズムがつかめなくなってしまい、だいぶかかってリズムを取り戻し、それからは一気に十人切り事件へと突入した。
主人公の城戸熊太郎は河内の百姓の長男として生まれ、父の平次と継母(実母は早死)の豊に慈しまれて育った。家ではかしこいなと言われて育ったものの、頭が良いので、実はそんなでもないということを早くから自覚してしまう。思考する能力があるがまわりくどく、またそれを適切な言葉にできない。口から出る言葉は奇天烈なことばかりである。実直に働けなくて、酒を飲み博打を打ち女を買い、いっちょまえの侠客気取りでトシを取っていく。でも根がおっとりしていて正直者のところがあり、人の言うことをすぐに信じて、おだてられると調子に乗る。賭場で助けた弥五郎はそんな熊太郎を兄貴として立て、最後まで行動を共にする。こういうヤクザながら人の良い人間を利用しようとする人間がいた。なんでそんなヤツの術策にはまるのかと思うが、騙されたり煽てられたり脅かされたりして、金の工面をするはめになり盗掘だってやってしまう。縫という村の女に一目惚れして嫁にもらうのにも、一直線の行動のために理由のない大金を払うはめになる。あまりにもその人の良さが歯がゆい。そこまで読者をこれでもかと引っ張っておいて、そしてついに悪を滅ぼす行動に出る熊太郎となるのがうまい。
十人切りのあと山に逃げた隠れ場所で弥五郎が熊太郎に、おまえはいつもほんまのことを話したことがないと思うと言ったことに、熊太郎はいまこそほんまのことを話しておこうと思い、長い独白のような話をする。この話し言葉を抑揚つけて声を出して読むと、なんや祭文を読んでいるような気分になった。
はじめて町田康の作品を読んで、大好きな作家ではないけれど、ものすごく才気と魅力があって、ものすごく勉強していると思った。(中央公論社 1900円+税)