同じエドマンド・ホワイトの「パリでいっしょに」のことを書いたのは3月26日だった。ちょうどその日にパリから帰った札幌のSさんが読まれて「ご縁があるんだわ」とメールをくださった。わたしはパリに行ったことがないが、パリのことは「モンテ・クリスト伯」の時代からよく知っている(笑)。サガンの主人公とパリの街をさまよったし、ボーヴォワールが行ったカフェのこともよく知っている。一生行くことはないと思うが、わたしにはパリは親しい街である。
本書はそんな読むだけの旅行者に向いた本である。訳者(柿沼瑛子さん)のあとがきには、一回目のパリではなく、三回目のパリにふさわしいパリのガイドと書いてあるが、パリのこと、パリに住む人のことを知る喜びを知っている人に向けた本だと思う。
「パリでいっしょに」はパリで暮らしているホワイトと恋人ユベール・ソランの生活と人付き合いが主に書かれていて楽しかった。ほんとはエイズに侵されたユベールを看とっているホワイトの苦しみがあるわけだが、この本では極力パリの暮らしを明るく書いてあった。
ホワイトがパリを最初に訪れたときは、まずまず若く見える部類の四十三歳で、パリを去るときは白髪まじりで二重あごの六十男となっていたと書いてあるが、20年近くをパリで過ごしたホワイトが書いた本だから、単なるガイドではない。フランスはアメリカに比べてゲイに寛容だったから、運動の指導者がいなくてエイズへの対応が遅れたことをわたしははじめて知った。またユダヤ人問題への言及も深い。宗教問題にも鋭く触れている。
わたしがいちばん楽しかったのはギュスターヴ・モロー美術館のことを書いているところだ。シニカルにいまのモロー美術館の姿を描きだしている。
最後がいいので引用します。【橋の下で誰かがサックスを吹いているセーヌの寒々とした無人の河岸—すべては値がつけられないほど貴重ではあるが、遊歩者になれば誰でもただで手に入れることができる思い出なのである。】(DHC 1400円+税)