数日前に塚本邦雄さんが亡くなられた。大阪に住んでおられたなんて全然知らなかった。わたしは有名な歌をいくつか知っているだけで、彼の歌をきちんと読んだことがない。著書を1冊だけ持っている。岩波セミナーブックスの「新古今集新論」(1995)で副題が「21世紀に生きる詩歌」となっている。講座用につくられたレジュメなのだ。「新古今集」と言われてもなにがなんだかわからないわたしには、ちょうどよい入門書であるが、これ以上進むことがないのはわかっている。手に取りやすい本なので、ジンマシンで眠れないときなど、開いたところを気ままに読む。解説が自分の言っていることこそ正解、みたいな断定のしかたで説得力がある。複雑な政治と文学の関係の中で歌われた歌についてなんとか理解できるし、この歌が好きとか嫌いとか勝手に言って楽しめる本でもある。
兄が長いこと謡を習っている関係で、昔はよくチケットをもらって産経観世能に行ったり大阪能楽会館へ若手の勉強会を見に行ったりした。そこで、能「定家」を見て、藤原定家の秘めたる恋人とされている式子内親王に憧れてしまったのだ。“忍ぶ恋”って言葉の美しさにも。
式子内親王の“忍ぶ恋”の歌の美しいことったらない。和泉式部のほうが華やかだが、どちらも好き。今夜もひとり「恋ひ恋ひてよし見よ世にもあるべしと言ひしにあらず君も聞くらん」の解説を含めて繰り返し読んでいる。塚本さんはこの歌を式子内親王の恋歌の中でも別格というべき絶唱と言っている。幻想の恋は現実の恋を凌駕するとも言っている。