夕刊に朝吹登水子さんの訃報が出ていた。ひとつの時代が終わったような気がする。若いときフランソワーズ・サガンを読んでめちゃくちゃ魅せられた。好きなところは暗記するほど何度も読んだが、そのおしゃれな日本語が朝吹さんの言葉だったのだ。わたしは小生意気な女とずいぶん言われたけれど、それはサガンと朝吹さんの言葉を使って、大阪でサガン的女を演じていたからだった。
次に読んだのがシモーヌ・ド・ボーヴォワールの自伝的作品だった。サルトルとの出会いや華やかな生活、恋人のアメリカの作家ネルソン・オルグレンに会いにいくところもあこがれだった。フランスのおしゃれな気分にビンボーな日本の少女は憧れたんだわぁ。そして仲介者の朝吹さんにも憧れた。
シモーヌ・ド・ボーヴォワールがサルトルとともに来日したのは1966年9月のことだ。わたしは東京読売新聞社で行われた講演会の入場券を手に入れて東京へ行った。若い仏文学者が通訳をしたが、ボーヴォワールがなにかのことでまくしたてたので、混乱してしまいうまく日本語にできなくて立ち往生した。そこで聴衆の中から立ち上がったのが朝吹さん。グリーンのスーツを着てはったように記憶している。いまボーヴォワールさんが言われたのはこういうことですと明確におっしゃった。ものすごくかっこ良かった。