ニューイングランド地方の小さな町ノースモントで開業しているサム・ホーソーン医師が、解決する事件の物語なので、古き良き時代のと書きはじめたいところだ。ところが最初の「黒いロードスターの謎」では、時代は大恐慌の真只中でとはじまる。ときは1935年春、「ボニーとクライドは言うに及ばず」と言ったあとはデリンジャーの名前があがっている。久しぶりにデリンジャーの名前を見て思い出したのはジョン・ミリアス監督の「デリンジャー」(1973)なのであった。ウォーレン・オーツがよかった。
そして1937年9月中旬の事件「毒入りプールの謎」では、地元週刊新聞発行人のプール付きの豪華な邸宅で貝焼きパーティが開かれる。仕出し業者が用意したバーで、その家の夫人スーが飲むのがカクテル“トムコリンズ”である。実はわたしはトムコリンズに凝っていて、バーに行くとたいてい注文する。すごく甘いのをつくってくれる店があり、すっきりとドライなのをつくってくれるバーテンもいる。えっと聞き返されることもあって楽しい。
それと、今回わかったのだけれど、サム・ホーソーン医師には奥さんがいるらしい。独身だとずっと思っていたんだけど。夫人が訪問客のグラスに・・・というところがあっておどろいた。ほっとしたような気持ちだ。いままでの作品で奥さんは出てきただろうか。わたしははじめてのように思うのだが。
好きなのは「皮服の男の謎」かな、「消えたセールスマンの謎」かな、「幻の談話室の謎」もいいな、そう考えはじめるときりがない。それぞれがちょっととぼけた感じでおもしろいのだ。(創元推理文庫940円+税)
※サム・ホーソーン医師の奥さんのことを、木村さんに教えていただきました。
『ミステリマガジン』2003年10月号「巨大ノスリの謎」に登場しているそうです。わたしは多分持ってない、残念。「動物病院の怪事件」に登場した女性獣医さんだそうです。こっちはあるので読みかえさなくっちゃ。(29日)