ジャスパー・フォード「文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!」
去年の夏の終わりにクリスタ長堀の丸善で平積みされていた文庫本が目に入った。へんなイラストの表紙はふざけたSFという感じだ。手にとって中を見てもどしたのだけれど、“ジェイン・エア”の文字が気になって買ってしまった。そのまま置いてあったのをようやく読み出したら、これがおもしろくてたまらない。
読み終わってから検索してみたら、ハードカバーで2003年10月に発行されていたのの文庫化(2005年9月)だとわかった。そして「文学刑事サーズデイ・ネクスト2 さらば大鴉」も出ているのがわかった。へえ、知らぬはわたし一人なりだったのね。イギリス、アメリカでたちまちベストセラーになり、各紙が書評を載せたそうな。
1985年のイギリスが舞台なのだが、物語の世界ではロシア帝国とのクリミア戦争が131年目を迎えている。イングランドは超巨大企業のゴアライアス社に支配されており、ウェールズは共産化して独立している。
主人公サーズデイ・ネクストは36歳の独身女性でクリミヤ戦争に従軍したことがあり、いまは特別捜査機関の文学刑事局に勤務している。元恋人のランデンはサーズデイの兄とクリミヤ戦争でいっしょだったが、兄は戦死しランデンは片足を失った。そのときの状況を知った彼女はランデンを許せずに離れてしまった。転勤でロンドンから故郷のスウィンドンに飛行船で到着する。その地にはランデンが住んでいて再会するが、サーズデイは気持ちとうらはらに冷たい態度で接する。
ジェット機でなくて飛行船というところがおかしい。コンピューターはないけど、タイムトラベルのできる人たちがいるし、クローン技術は発展しているというけったいな社会である。
発明家の伯父マイクロフトが本の中へ入ることのできる装置“文の門”を発明したのを、悪用されて事件が起こる。発見された死体はディケンズの「マーティン・チャズルウィット」の登場人物クウェイヴァリーだった。
それから犯人を追ううちに相手は「ジェイン・エア」の中に逃げ込む。そこでロチェスターさんと協力して犯人と対決とあいなる。その結果、もともとの本と内容が違ってくるのがおかしい。その結果というのが、いま我々が読んでいる「ジェイン・エア」なのである。「ジェイン・エア」にからんで最後の方には中島さんという日本人も出てくる。
作者のジャスパー・フォードは1961年生まれのウェールズの男性で、最初は映画作家を志したが、ヒマを見つけて小説を書き始め6冊目に書いたのが本書だそうだ。
ほんとに文学好きにとってはおもしろくてしかたない作品だが、ふざけていると怒る人もいるかも。こういう本がベストセラーになるというのは、とても成熟した社会だからだと思う。先日読んだ「ジェイン・オースティン読書会」にしても、文学が生活に溶けこんでいるのを感じたが、本書も文学を日常的に愛して暮らしている人たちが多い成熟した国の本という感じだ。(ソニーマガジンズ ヴィレッジブックス 920円+税)