本書をはじめて読んだのは10年前の1996年である。読んだときには、なんで「赤い鰊」かわかったのに、すでに忘れていて、ニシンの料理のことだったかと思った(笑)。
ピーター・ウィムジィ卿シリーズの6册目。後に結婚するハリエット・ヴェインと知り合った「毒を食らわば」の後の作品だが、本書には全然ハリエットの姿は出てこないし、会話にも出ないし、思いをはせることもない。お茶目なピーター卿の大活躍物語である。人生の物語から一休みして、セイヤーズの探偵小説作家としての才能を十二分に生かした作品だ。
ピーター卿はバンターを連れてスコットランドの小さな町で、釣りをしたり画家たちとつきあったりしている。画家仲間のなかでキャンベルひとりが町じゅうでもめごとを起こしている。その夜もパブで喧嘩騒ぎとなり、ピーター卿はキャンベルを殺したいほど癪に障っている画家が何人もいることを知る。
翌朝、キャンベルが川の石の上で絵を描いているとき、渓流に落ちて死んだと知らされて、ピーター卿はすぐに現場へいく。死体を調べて溺死ではなく殺されたとわかる。その日に限って出かけた人が多く、戻ってきていない人もいて捜査は難渋を極める。バンターは休みをとって映画に行くと言い、実はある画家の女中を誘ってその家の様子を探ってくる。残念ながらバンターの出番はそれだけである。パーカー主席警部も出てくるが助っ人としてだけなので、これも残念だ。
画家たちの行動を探っていくと動機はみんなにあるし、怪しげな行動をしている人が多いのでたいへんだ。最後にピーター卿が考えて立証するが、今回ばかりはよく動く。それもスコットランドの警察官たちといっしょに行動して、理詰めで追いつめていく。スコットランド訛りが日本語にちゃんと訳されていておもしろい。
「赤い鰊」が会話に出てきて「にせのてがかり」とルビがふってある。五匹というのは、5人に犯行の動機があり「てがかり」もあったために、「にせのてがかり」を追いかけたことをいうのだろう。イギリスではニシンは身近な魚だんだろうな、ヘリンボーンって布地があるしね。わたしはニシンソバが好き。(創元推理文庫 税込み850円)