ミクシィの「セイヤーズ読書会」コミュニティのために数日かかって読んだ。買ったとき(1997年)に読んで、2001年12月には「ナイン・テイラーズ」とともに再読して感想を書いている。今回3回目なんだけど、抜かしたりせずしっかりと読んだのは、ほんとにおもしろかったからである。
セイヤーズは「ナイン・テイラーズ」の調べものに時間がかかったので、しかたなしに本書を無理に書いたという。舞台を自身がコピーライターとして働いていた広告業界にして、麻薬取引と殺人の物語にした。広告が世に出るまでのいろんなことが書いてあるのもおもしろい理由である。
広告会社で一人の従業員が階段から落ちて死ぬ。ピーター・ウィムジイ卿はデス・ブリードンと名乗ってその会社に就職し、その死の原因を突き止めようとする。死んだ男は悪名高い令嬢ダイアン・デ.モメリーと付き合っていた。モメリーに接近するピーター卿のやり方がいやに芝居がかっている。短編小説にこんな感じのがあったように思う。このへんだけが1932年という年代を感じさせるが、あとはもうおもしろくてどんどんいく。どうやらモメリーは麻薬取引の一端に関わっているらしい。
一方パーカー主席警部は大きな麻薬組織を追って捜査を進めているが成果は上がっていない。ピーター卿はパーカー夫妻の住所を使わせてもらっていて、よく彼らの家に行くので、妹のメアリとパーカーの幸せな結婚生活がわかる。パーカーが仕事帰りに魚屋で平目を買って手に提げて帰るところがあっておもしろい。あせった犯人はピーター卿の代わりにパーカーを襲撃し、鎖骨を折る大けがを負わせるが暗かったので犯人の顔がわからない。
デス・ブリードンとしてコピーライターの才能を発揮しだすと、ピーター卿は仕事のおもしろさに目覚めてしまう。また、会社関係のクリケット試合に出て、目立たないようにしようと思っていたのに、つい頑張って目立ってしまい、「ベイリオルのウィムジイ君じゃないか」と昔のクリケットを懐かしむ老人に言われ、あわてる場面もおもしろい。
最後は殺人と麻薬取引がいっきょに解決され、ピーター卿はサラリーマン生活から足を洗うが、最後にした大キャンペーンの仕事がはじまって、街にはピーター卿の考えた広告文があふれている。(創元推理文庫 900円+税)