広大なカントリーハウス〈ジャステス・ホール〉が主役というか、この偉大な屋敷を支配するべき正しき相続人を探すため、ホームズとともに力を尽くしたメアリ・ラッセルが語る物語である。
ラッセルとホームズは事件を片付けてサセックスのわが家に帰り、ハドソン夫人の料理を味わったあと、くつろいでいるところへ来客がある。訪ねてきた見知らぬ男は怪我をして倒れかかる。ラッセルに「アミール」と呼びかけて。その名前はパレスチナ(「エルサレムへの道」)でベドウィンに扮装していたラッセルが使っていた名前だ。そのときベドウィンそのものと思っていた二人、アリーとマフムードは英国の密偵だった。訪ねてきた男はその一人アリーだった。ロンドンで暴漢に襲われてやっとこさでここまで辿り着き、すぐにジャステス・ホールへ来てくれるように頼む。従兄弟であり同志であるマフムードを、公爵という枷から解き放ちたいから協力してほしいというのだ。相続人がみな死亡し、次男として自由に生きてきたマフムードがいまマーシュ卿として当主になっているという。
翌日、怪我人とともにホームズとラッセルはジャスティス・ホールに行くと、広大な屋敷と森のような庭園とたくさんの使用人が迎える。二人は死んだような目をしたマーシュ卿におどろく。
マーシュ卿の妻アイリスがフランスからやってくる。この夫婦は相互理解のもとに別れて暮らしている。狩りの催しのときマーシュ卿は散弾銃で撃たれるがあやうく助かる。屋敷内部にマフムードとアリーを殺そうとする者がいるようだ。アリーのロンドンでの怪我も暴徒を装った殺人者の計画的な行為だったとわかる。
亡くなった前公爵ヘンリーには爵位を継承すべき息子ゲイブリエルがいたが、第一次大戦で死亡した。その真相を明らかにして、真実の爵位継承者を探す長い物語である。ラッセルはホームズとともにフランスへ行き、アイリスとともにカナダへ行く。
このように複雑な物語なのだが、第一次大戦の悲惨さが語られるのが、いまの世界情勢と重ね合って“現在”の物語になっている。
公爵家の相続人についてのうるさい論議は、まるでどこかの国の王室のお世継ぎ問題のようだ。しかも当時のイギリスは女性に相続権がなかった。
とてもとてもおもしろく二度読んだ。この本もカバーがフェミニンで全然内容とあってない。(集英社文庫 952円+税)