14日に書いた「フォークランド館の殺人」の前の作品で3冊のシリーズの1作目。この3冊を書いてケイト・ロスは亡くなってしまい、読者は永遠に続きが読めないことになった。
ジュリアン・ケストレルは「フォークランド館の殺人」では調査を依頼されるが、それは本書で事件を解決した評判を聞いてのものだった。
名門貴族の跡継ぎヒュー・フォントクレアは、遊び人の従兄弟ガイに連れていかれた慣れないギャンブルハウスで酔っているところをジュリアンに助けられる。それを見たガイはなぜジュリアンと仲良くできたのかとヒューに訊ねる。ジュリアンはロンドン社交界一のダンディとうたわれているからだ。
ヒューは近々ベルガード館で挙式するので、結婚式の花婿の介添えをジュリアンに頼む。仕立て屋の請求書も溜まっているし、ロンドンを離れるのもいいかとジュリアンは従僕のディッパーと出かける。
ベルガード館はすばらしい屋敷で家族も気品があるが、ヒューの結婚相手は元馬番から成り上がったクラドックの娘モードだという。クラドックは一族の秘密を手に入れ脅してこの結婚を仕組んだのだ。
ヒューと馬で領地を見学して帰り部屋にもどると、ジュリアンのベッドに若く美しい女性の死体があった。屋敷のだれもが知らないという中でディッパーが容疑者にされてしまう。ジュリアンは元々スリであった彼の身元がわかると文句なしに犯人にされてしまうと、真犯人を探すことにする。調べていると領主一家の過去がわかってくる。
医師のマクレガーに洒落もので生きるよりなにかをしたらよいと言われて、ジュリアンの答えは、“わたしには教育がない。父は紳士階級の人だったが、舞台女優と結婚して勘当された。金もなく頼るべき繋がりもない。伊達ぶりで人目をひかないといないのも同然だ”ということでジュリアンという人が少しわかった。
フォントクレア家は遡るとエリザベス一世の時代、パピントンの謀反事件でスコットランドのメアリー女王側についたという。パピントン事件と聞いて、アリソン・アトリー「時の旅人」を思い出した。少女が田舎の家の古い廊下のつきあたりのドアを開けると16世紀の貴婦人たちがいたという「時」を超える物語だ。当主のアンソニー・パピントンは地下に秘密の通路を作り、メアリー女王がパピントンの屋敷へ逃れるようにしたという言い伝えがあるそうだ。それは不成功に終わり、女王は断頭台に、パピントンは絞首台に送られた。