ケイト・ロスのジュリアン・ケストレルものの翻訳3作目「マルヴェッツィ館の殺人」(1997)だが、ケイト・ロスは1998年に41歳で亡くなられたので、この後は読むことができない。ほんとにすごい才能が失われてしまった。
前2作を読んでいたら、ジュリアンはロンドン社交界一のダンディであるが、知己となったマクレガー医師との会話で、学問がないから医者や弁護士になれないと言っている。どういう青年時代を過ごしたのだろう。仕立て屋に払うお金はどうなっているんだろうと不思議だった。本書でそんな疑問が解決する。
ミラノの貴族マルヴェッツイ侯爵が心臓発作で亡くなって4年半経って、真実を知っていた老婆が死の間際に告白したのが、侯爵はピストルで撃たれて死んだこと。その夜、侯爵が庇護していたテノール歌手オルフェオが居なくなったことから、犯人とされる。侯爵は密かに歌の訓練をマルヴェッツィ館で受けさせていたので、彼がイギリス人ということしか他の人間にはわからない。
ジュリアンは師を亡くして失意のマクレガー医師を誘い大陸旅行中だったが、新聞で事件のあらましを知ると、警察にまかせても解決はできないと、侯爵家へ事件解決の売り込みの手紙を書き、侯爵夫人から依頼の返事をもらう。
こうしてミラノへ乗り込んだジュリアンは、スカラ座のシーズンになるとやってくる知り合いに紹介してもらうと、そのダンディぶりと音楽に関する造詣の深さで一躍ミラノ社交界の有名人になる。そしてマルヴェッツィ侯爵夫人の取り巻きとして認められる。
マルヴェッツィ侯爵夫人とジュリアンのやり取りを読んでいたら、スタンダールの「パルムの僧院」を思い出した。映画でマリア・カザレスがやっていたサンセヴェリナ公爵夫人とジェラール・フィリップ演じるファブリス。当時、ミラノはオーストリアの支配下にあった。本書の時代も「パルムの僧院」の時代に近いようだ。
後はまた明日。