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アイルランドの現代小説 コルム・トビーン「ヒース燃ゆ」

図書館で手にしたとき、そよ風が吹き抜けるような感じがした。白いカバーの瀟洒な本で表紙には海と崖の上ぎりぎりに家が建っている細長い写真がある。読み出したらすーっと心に入ってきた。
わたしはアイルランドが好きといつも言ってるけど、なにも知らんのによう言うてると自分でも思う。アイルランド出身のアメリカの私立探偵が好きなだけだったりして(笑)。何冊かアイルランド作家の作品を読んだことがあるが、今回でようやく、そうなんだーと納得できた。ジェイムズ・ジョイスの何冊かを読んで以来のことだ。もっともジョイスの本を読んだときはずいぶんかまえていた。
コルム・トビーンは1955年生まれの現代アイルランドを代表する作家だそうだ。アイルランド生まれの人間の幸せを感じる。アイルランド独立の戦いの歴史が背景にあって、祖父も父も叔父たちも関わってきた。その地への愛情が主人公エーモンが暮らしたり散歩したりする町や村の名前をしつこいくらいに書いていることでわかる。
エーモン・レドモンドはダブリン高裁の判事で、物語は裁判所で判決文を読む支度をしているところからはじまる。安定した地位にあり何不足ない晩年を前にしているわけだが、妻カーメルとの間がもやもやしている。娘のニーヴと息子ドーナルともうまくいっていない。
その日の仕事がすんだあと、夫婦はエーモンが幼い頃から休日を過ごすことにしているアイルランドの東南の村カッシュへ行くのだが、その車中、カーメルは娘が妊娠して未婚の母になる選択をしたことを告げる。そのときエーモンは未婚の母裁判の判決を社会の秩序を重んじる立場からしたところだった。それへの反対運動の動きにドーナルが参加しているという。
物語はいまの夫婦生活から、自然に過去にさかのぼって子ども時代の物語となる。母を早く亡くして父と二人の生活だったが、祖母や叔母たちがよく面倒をみてくれる。クリスマスに祖母が叔母に話していたのは、1916年の蜂起のとき、この町に住む人の半分が抑留され、おじいさんはこの部屋で逮捕されたこと。父は学校教師だが独立運動の活動家でもあった。祖父の死、結核の叔父の死と続く近親者の死に続き、父も倒れて再起したものの亡くなってしまう。エーモンは静かな少年に育ち大学へ行く。

ニーヴとエーモンの会話「この国で、女であるということ、未婚で子どもを生むということがどういうことか、私には分かり過ぎるほどよく分かっているんだから」「さぞ立派な判決が、お前だったら出せることだろうよ」。
娘と父がこういう会話を交わしたあとにカーメルが亡くなる。残されたエーモンはただ散歩して体を疲れさせて眠ることしかない。ニーヴが息子のマイケルを連れて海辺の家にやってくる。祖父になつかなかったマイケルだったが、エーモンがニーヴの幼いときにやったように水で遊ばせるとだんだん親しんでくる。ほのかな希望が見えて終わり。とても気持ちのよい小説だった。(松藾社 1800円+税)

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2007年06月22日 00:56に投稿されたエントリーのページです。

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