偶然に図書館で出会った本にはまってしまった。最初に翻訳された「妖精王の月」から「歌う石」と読み継いだのだが、原作は3冊目の「ドルイドの歌」からはじまっている。感想は「ドルイドの歌」「歌う石」「妖精王の月」の順に書く。
月の下で踊る妖精たち
ドルイドの土地、ドルイドの楽の音
W・B・イェイツの詩が巻頭にある。本書はこの詩がいまなお生きているアイルランドを舞台にしたファンタジーである。
物語の舞台は紀元前から紀元5年までの無宗教時代のケルトの鉄の時代。アイルランドの国民的神話叙事詩は何世紀にもわたって口づてに伝えられてきたのち、古アイルランド語で書き記され、12世紀、14世紀の中世写本の形でいまに残されている。
「トイン」はコノハトの女王メーヴの軍がアルスターを侵略したこと、それをたったひとりで防ぎとめた若き勇者クーフーリンのことが語られているが、本書はその時代の中に入っていった姉弟の物語である。
ローズマリー(ロー)は17歳、ジェイムズ(ジミー)は15歳のカナダ在住の姉弟である。二人の父親は裁判官で教育に厳しい。ローのボーイフレンドが気に入らず、夏休みはアイルランドのパッツイおじさんのところへ行けという。くたくたになるまで働いてシンプルな生活をしたら悪いことも考えないだろう。ど田舎に行ってなにがいいことがあるのよとローは言い、ジミーはまぐさの山の中で眠ってみたいと言う。
パッツィおじさんは村のパブでヘンな男ピーターと出会う。彼は丘のそばにいたいから働かせてくれるようにと頼む。優しいおじさんは犬や猫も拾うが人間も連れてくるとおばさんは笑っている。しかし姉弟はピーターが気になって仕方がない。
夜中に出かけたピーターを姉弟はあとをつけていく。冷たい湖のほとりで横になり彼は歌をうたう。二人は気を失い倒れてその場で眠ってしまうが、彼らをピーターが見下ろして「そうだ、三人が必要だ」と言う。
二人が目が覚めると馬に乗った男たちがやってくる。そして二人を捕まえて連れて行く。天幕に押し込まれると女王メーヴがいて、アルスターの間者に違いないと言う。女王が「ドルイドよ、忠告がほしい」と声をかけると男が出て来た。「ピーター!」
はーい、姉弟はここからコノハトとアルスターの戦いに紛れ込んで大活躍する。ローは恋をするし、ジミーは英雄クーフーリンと生死をともにして固い友情を結ぶ。
「ドルイドは死なないのだよ。ただ身体が死ぬのみだ。彼らの魂は新たな身体にうつり住む」とピーターは言う(ああ、輪廻転生!)。さすらいの身だった彼は二人と出会って過去の世界に通り抜けることができた。そして冒険ののちにローは「つまり自分にあれがあるなんて、思ったこともなかったの」「うれしいのよ。自分に魂があって」と告白する。
永遠の別れをして現実世界にもどると、もう夏休みが終りだとカナダから帰りの航空券がとどいている。最後の夜を近所の人たちを招いて食べて踊って楽しく過ごす。思いついてローはピーターを呼びに行く。ピーターがマンドリンを奏でると、おばさんが「早咲きの薔薇のようなアイリーン・アルーン・・・」と歌う。(講談社 1545円)