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三島由紀夫「豊饒の海」第三巻「暁の寺」

昭和十六年、四十七歳になった本多は前々年に国号をシャムから改めたタイに、五井物産の仕事できている。バンコックのオリエンタル・ホテルから見ていると、日は対岸の暁の寺の彼方へ大きな夕焼けの中で沈んでいく。
会社がつけてくれた案内役に昔タイの王子二人を知っていたというと、彼らは留守だが幼い姫が一人残っているという。その姫は自分のことを日本人の生まれ変わりと思い込んでいるので、まわりの者が困っている。本多はその姫と会うことを希望する。勲が死の二日前に酔った譫言で言ったこと。「ずっと南だ。ずっと暑い。……南の国の薔薇の光りの中で。……」。謁見のあと姫は暑いからと水浴する。その胸の左の脇には清顕、勲と同じ黒子があった。
帰国してしばらく後に真珠湾攻撃となる。戦時中、本多は輪廻転生の研究のため古本屋で洋書和書を問わず手に入れて読みふける。
敗戦近いある日、本多は松枝邸の跡をたずねる。広大な土地を売った代金は銀行倒産のため失われ、養子の放蕩で残った土地も売り払われて没落したのだが、一面の焼け野原はかえって昔の面影をしのばせるものだった。そこで出会ったのは九十五歳になった聡子の乳母蓼科だった。
本多は関わった仕事ではからずも莫大な富を得る。昭和二十七年五十八歳の本多は御殿場へプールのある豪華な別荘を建てる。成長したタイの姫ジン・ジャンが日本へ留学していると聞いてのことだ。ジン・ジャンは子ども時代のことは忘れている。別荘の隣人慶子は吉田茂にもマッカーサー元帥にもぞんざいな口をきける例外的な日本人である。
別荘ができて盛大なパーティが開かれる。本多は客室の隣の書斎の壁に穴をあけ、隣室に泊めた客を覗いている。あるとき、慶子とジン・ジャンのからみあう姿を見てしまう。ジン・ジャンの体には、左の脇には清顕、勲と同じ黒子があった。

前二作を読んだときは、松枝清顕の死後、学習院から東大へ、そして裁判官となり、勲の弁護のために弁護士となった本多に思い入れがあった。三枝の祭や能を見ての気持ちの揺れに同調した。
しかし、大物弁護士となった上に大きな富を得た本多の姿はだんだん醜くなっていく。元裁判官の大金持ちに、こちらの気持ちが動かないのは当たり前だけど、夜の公園でのノゾキ行為とか、ようやるよなって感じになっていく。客観的読者になってもおもしろいところがすごい。

戦後になって女性たちがそれぞれの人生を生きていく姿が、リアルに描かれているところがいい。
勲が愛していた槙子は、歌人として成功し弟子を利用してのし上っていく。
慶子の上流らしいふてぶてしさがうまく描かれている。ジン・ジャンに入れあげる本多を世話するようなことを言いながら、自分のものにしてしまう。
本多の妻の梨枝は夫とジン・ジャンの仲を疑うが、夫がなにをしているか書斎へ探りに来て、覗き穴から慶子とのからみを見て安心する。

好意の持てない作品なのだけれど、どこか惹かれて二度読んでしまった。その理由はなんだろう。あと一冊「天人五衰」の感想を書いているうちにわかってくるかな。

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2007年09月06日 00:51に投稿されたエントリーのページです。

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