「現代ウィーン・ミステリー・シリーズ」全9巻の1冊。訳者によると本書はシリーズの第一巻なのだが、有名な『ケルズの書』がテーマなので、資料を読むふけるうちに嵌ってしまい、仕事が進まず最終配本になってしまったそうだ。
わたしも書いてあることを大雑把にでも知ろうと、『ケルズの書』の写真を眺めたり、ゾロアスター教のことを検索してあちこちしたりと時間がかかった。ていねいな解説もあって、古代からのヨーロッパの宗教や政治がおぼろげながらわかってきておもしろく読んだ。
話は802年のノルウェーのトロンヘイムからはじまる。ドルイドの女祭司がいてどうこうあって、イオナ島の方角を凝視しているところ。
次は1992年のウィーンで、シュタインヴェントナーという経財省のお役人が本書の主人公なんだけど、彼が真新しいホンダプレリュードで走っていて男を轢いてしまう。ひき逃げしてその車をよそまで持って行き、自分の荷物を取り出して逃げることにする。そのとき轢いた男が持っていたに違いない鍵のような物に気づく。車を盗まれたことにして警察に届けるが、車が戻ってきたと警察から連絡を受けてとりにいくと、同じホンダだが違う車であることに気づく。
次は802年のイオナ島(スコットランド北西海岸)となる。数章あとはシーナナス・モール(アイルランド)となり、ケルズ修道院が登場する。こんな調子で、時代と場所があちこちし、『ケルズの書』ができるまでの工程も記され、それが盗まれてトネリコの木に隠されたのを修道士が発見したとか。そしていまあるダブリンのトリニティ・カレッジに納められたいきさつもある。カレッジへ書を運んだアイルランドの大司教は、自らの人生においていまだかつてこんなにへりくだった態度をとったことがなかった、そしてアイルランド国民も、と書かれている。そのあとは『ケルズの書』の復刻版をつくる話がある。
一方、シュタインヴェントナーが鍵を持ったままなので、悪漢(?)のほうは妻を脅したり、攻撃をしかける。いろいろな事件を総合してフンメル警部はシュタインヴェントナーを警察に呼んで話を聞くが、話そうとしたとき「お前は選ばれている」と声が聞こえ、突然痙攣を起こして倒れてしまう。彼はやってくる深淵を感じる。
ミステリー仕立てだけど、奇書みたいなのが好きな人が読んだらおもしろいだろうと思う。ゾロアスター教という名前しか知らなかったので、この機会にいろいろと知ることができてよかった。(水声社 1800円+税)