男性作家3人の作品のあと手にしたのは、ミヒャエル・ホルヴァート編集による女性作家8人による1冊。全9冊のうち男性作家が8冊である。分厚くはあるが短編集というのはなんでやと思ったが、訳者あとがきを読んで納得した。「美しき青きドナウ」などのニューイヤーコンサートで有名なウィーン・フィルは、つい2・3年前まで女性に対して門戸を開こうとしなかった(2002年現在で3人)。そして音楽の都のオーケストラはどの都市よりもアーリア系男性からなる等質な集団であり続けている。ミステリー状況も同じくなのだろう。
しかし、本書の8人の作家の作品を読むと、いままで読んだ3人の男性作家と同じようにヨーロッパという匂いがあるのと同時に、もっとえげつない作品であることににおどろいた。
訳者が書いているように「美しき青きドナウ」に挑戦するような〈暗いドナウ〉がエーディト・クナイフルの「母なるドナウ」に描かれている。ほんとに気持ちが悪くて好きとは言えないけど深く迫ってくる。
アンナ・ヘルコヴィッツ「危険な読書の秋に」は書店で働く女性が、休暇明けに出勤してきて店に入ると、雇い主の首つり死体にぶつかる。仕事の清算をしつつ殺人者を捜し出すのだが、米英の女性探偵ミステリーとひと味違う。
どの作品もと言っていいくらいに、刑事や警官がやってくるとおしゃべりなばあさんがけむに巻く。
ぷっと笑ったのは、勝手に私立探偵の真似をして追跡中、タクシーを呼び止めて、あの車をつけてと頼むと、ここはハリウッドと違うと下ろされてしまうところ(ユーリア・マルティンス「エゥリデケの死」)。(伊藤直子・須藤直子訳 水声社 1800円+税)