「現代ウィーン・ミステリー・シリーズ」の6冊目を読み終えた。先の5冊も変わっていたけど、本書もまた違った異色のおもしろさだ。ブレナーシリーズの3作目ということだが、1作目から読みたかったなぁ。
書き方がおもしろい。主人公のブレナーの語りではなく、ブレナーをからかうように説明する書き手が別にいるのだ。慣れるまでちょっとヘンな感じがしたが、探偵が自分の言葉で書くより客観的でいい方法かとも思える。探偵が自分で言うより、探偵のこっけいなところやクセをからかいつつ説明できる。
ブレナーは警察で19年働いてクビ同然で辞め、私立探偵になったものの廃業し、シリーズ3作目のいまはウィーンの赤十字救護センターで救急車に乗っている。
ウィーンにはもうひとつ救急同盟という救護隊組織があって、両社が激しくせめぎあっている。救急隊員の仕事ぶり、彼らの性格からくる救急車の運転ぶりがおもしろい。一分一秒を争って彼らは毎日を過ごしている。最近は救護センターの仕事が救急同盟に奪われはじめていて経営者はいらつき、救急同盟が仕事を奪うために陰謀をめぐらせていると言い出し、元警官だからとブレナーに調査を命じる。
ある日、血液銀行の社長と愛人が救護員の目の前で射殺される。その次は隊員が救急車の中で絞殺され、隊員が逮捕される。そこへ殺された隊員の娘からブレナーに父の死を調べてほしいと頼まれる。
ブレナーは夕方の搬送で昔のガールフレンドのクララに出会う。二人ともずっと前からウィーンにいたことがわかる。クララは裕福な家庭の娘だったが、いまは高校の音楽教師をしている。ブレナーがそんな必要はないだろうにと言うと、【クララは微笑した。分かるだろう、この種の微笑。金持ちが貧乏人に、お金があるから何の問題もないでしょうと言われたときに浮かべるあの微笑だ。】という具合だ。クララは肝臓をやられて放射線治療に通っている。50パーセントと聞いたブレナーは胸がしめつけらる気持ちになる。
ブレナーは知らず知らずにうちに口笛を吹くクセがあった。夜中に電話して訪れたクララの家で、口笛を吹いた彼に、その曲はマタイ受難曲の「きたれ、甘き死よ」だとクララは言う。昔クララに教えてもらった曲だった。
最後のカーチェイスがむちゃくちゃおもしろい。マタイ受難曲のコラールをバックに爆走し暴力的に事件を解決してしまう。(福本義憲訳 水声社 1600円+税)