« アイドル、わはは | メイン | スーザン・ヒル 文 アンジェラ・バレット 絵「キッチンの窓から」 »

阿部公彦編「しみじみ読むイギリス・アイルランド文学」

しみじみ読むイギリス・アイルランド文学 (現代文学短編作品集) ベリル・ベインブリッジ今年の6月に出た本である。図書館にもう一冊あって「しみじみ読むアメリカ文学」というのだが、若い人向けの文学入門書なんだろうか。12編の短編小説と詩が集められていて、長めの親切な解説がついている。とりあえず興味のあるアイルランドが入っているほうを借りてきた。
知っている作家はエドナ・オブラエンとカズオ・イシグロだけだが、それぞれ読みやすくてすぐに読了できた。ちょっとかなわんところもあった。作品ごとに目次に〈思春期しみじみ〉〈母親の苦労しみじみ〉とか入っているのである。
作品はそれぞれ現代のイギリスとアイルランドが表現されていておもしろかった。

ヒューゴー・ハミルトン「ホームシック産業」は、アイルランド関係の製品を作り国内用と輸出用の両方を扱っている会社の配送部長の〈わたし〉の屈折した気持ちが述べられている。〈わたし〉の仕事は、アイルランドの物産(伝統音楽、アイルランド教材、アランセーターなど)を世界中に届けることだ。ある日社長がやってきて、表に停まっているトラックに荷物を載せてしまわないと、いつまでも道を占領しているわけにはいかないので、自分といっしょに運んでほしいと頼む。自分の仕事ではないと断ると論争になる。この論争がアイルランド的というのかおもしろい。結局さきに仕事をはじめた社長といっしょに働くのだが、社長は負けた〈わたし〉にとどめを刺したりしないで、「埋め合わせはするよ」と電話で言う。しばらくして〈わたし〉の誕生日に社長からとどいたのはアランセーターだった。〈わたし〉はそのセーターをどこかへ出て行くセーターといっしょにする。何日かしたらマドリッドのどこかの宛先へに届くはずだ。
解説者の説明に【アイルランド性の拡散が、アイルランド性の回帰に結びついてしまうのを、このように苦く滑稽なアイロニーで描くのがこれまたなんともアイルランド的というほかない。】とあって納得した。(松柏社 2000円+税)

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://dp31082594.lolipop.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/1233

About

2007年12月16日 00:19に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「アイドル、わはは」です。

次の投稿は「スーザン・ヒル 文 アンジェラ・バレット 絵「キッチンの窓から」」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。