図書館のヤングアダルトの棚に、気難しそうなみすず書房の白いカバーの「五月の霜」があった。イギリスの作家アントニア・ホワイト(1899〜1980)の長編小説のはじめての邦訳だという。ロンドンで生まれたホワイトは、パブリックスクールの教師でプロテスタントからカトリックに改宗した父の方針で、ロンドン郊外の女子修道院付属の寄宿学校で9歳から15歳までを過ごした。本書はホワイトのそのときの体験をもとに書かれた作品である。
学校の規則は厳しいものだが、改宗者に対する教育は特別に厳しい。主人公ナンダは父の命令にもよるが自分でも真のカトリック教徒であろうと必死である。責任者のマザー・ラドクリフは長年にわたって少女たちを見守ってきたから、ナンダの性質(文学少女)を見抜いて、改めるように導こうとする。
一人の修道女が言う「あなたは頑固で、独立心が強い。九歳の子どもの精神に誇りがあるとすれば、その誇りこそがあなたの一番の悪です。・・・」ちゃんと見抜いている。
祈りと勉強の日々で友だちもできる。ナンダが仲良くなった彼女たちは、休暇中はヨーロッパの貴族社会で過ごしていて、すでに退廃的な雰囲気を身につけている。その一人レオニーは言う。「今から二十年後にはナンダは筋金入りの、誰が見ても間違いようのない合理主義者になっていて、わたしはといえば、模範的なカトリックの母親になっている。・・・」ちゃんとわかっている。
麻疹が流行したとき、仲良し四人組はしっかりと罹って同じ病室に入る。そのときの会話で、みんなの未来を語るのだが、三人の未来ははっきりしているけど「ナンダは未知数」とレオニーは宣言する。
病室で書いた小説がマザー・ラドクリフに見つかり、両親が呼び出される。父親に捨てられたナンダは学校からも追放される。最後に「わかりました。マザー」と言うと、マザーは「そうです、その調子、人生は十四歳で終わりではないのですよ」。ナンダにはもうもとのよういはなれないのがわかる。
訳者あとがきによると、アントニア・ホワイトは女子校を卒業してから、父のすすめるケンブリッジへは行かず、コピーライターとなり短編小説を書き始める。さまざまな職業について結婚・離婚を三回経験している。(北條文緒訳 みすず書房 2800円+税)