最初に読んでから50年にもなる「スイート・ホーム殺人事件」だが、読むたびにおもしろい。最初に読んだのは「別冊宝石」だった。ミステリー雑誌「宝石」の別冊で海外ミステリーを翻訳紹介をしており、家族揃ってものすごく恩恵を受けた。ディクソン・カーもレイモンド・チャンドラーも、カボチャ型の帽子をかぶった女性が出てくるウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)「幻の女」も、と数えあげたらきりがない。全体に挿絵がモダンで、いまだに「黒衣の花嫁」のストラップレスのドレス姿を覚えている。
きょうだい全員が読んで、オコダカマカリキ(「スイート・ホーム殺人事件」の子どもたちの造語の日本語版)と叫んでいたわが家である。
文庫本で2回目に買ったのがいま手許にあるが、これも汚れているので、今度はきれいな本で読みたいと思っている。山本やよいさん訳で出してほしいなぁ。ほんとにおもしろい本なのだ。
ダイナ(14歳)、エープリル(12歳)、アーチー(10歳)のカーステアズ家の子どもたちが、母(探偵作家)のマリアンのために、近所で起こった殺人事件を解決しようとする物語。マリアンはずっと新聞記者だったが、いまは読物作家として何人かの名前を使って毎日タイプライタに向かっている。事件の捜査にあたるのはビル・スミス警部(孤独なホテル暮らし)とオヘーヤ巡査部長(九人の子どもを手塩にかけたが口癖)である。子どもたちはマリアンが事件を解決したことにした上で、ビル・スミスをマリアンの夫にしようと大活躍する。
事件のほうもよくできた作品なのだが、まず目を見張ったのが日々の暮らしである。三人の子どもたちは母が仕事中は邪魔しないように気を使っており、食事の支度も学校へ行くのも自分たちできちんとやっている。母の日の薔薇を近所にもらいに行ってもきちんと応対する。
ルークの店というのがあってコカコーラやルートビアやクリームソーダを飲ませる。最初に読んだときはコカコーラを知らなかったのであこがれたものだ。
それよりも家でつくるお菓子の数々が垂涎の的だった。スコーンやレモンパイやジンジャーブレッドや見たことがないものが多かった(いまは知っているが)。
要するにアメリカ民主主義の洗礼を受けて染まってしまったのね。「小公女」と「ジェイン・エア」の後に「スイート・ホーム殺人事件」がきて、その後にセイヤーズの「大学祭の夜」(「学寮祭の夜」)だもん。リクツっぽいと言われても、ねぇ。(長谷川修二訳 ハヤカワ文庫 580円)