パスコー主任警部は公休日だった。家でのんびりハンモックに揺られていると、ミル・ストリートのレンタルビデオ店に銃を持った男がいると報告があったと電話があり、出て行くはめになる。そこは最近CAT(合同テロ防止組織)の警戒標識がついている。ダルジール警視が出勤日で現場へ出動していて、ガンマンと接触したのはヘクターだと言う。
今回の物語はへたれ巡査のヘクターからはじまって、ヘクターで終わる。警察の試験をすり抜けたように合格したヘクターは、中部ヨークシャー警察の中で異色の頼りない存在である。彼が見たのは、“なんだか黒っぽいやつ”と“たぶん黒っぽいやつではないやつ”で、右手に銃だったかもしれないものを持っていた。
ダルジールに続いてパスコーが店に近づくと突然爆発し、二人は吹っ飛ばされる。ようやく起き上がったパスコーは死んだようなダルジールに人工呼吸をする。店内にいた三人はもちろん吹っ飛ばされていた。
病院へ運ばれたダルジールは目を覚まさない。軽症ですんだパスコーにCATの主任警視グレニスターが事情聴取にくる。職場へ復帰するとダルジールの机をグレニスターが使っている。マンチェスターのCAT本部へ引き上げるグレニスターは、パスコーに一緒に捜査にあたろうと誘う。行く決心をしたパスコーに、ウィールド部長刑事は「背中に気をつけろよ」と言う。
マンチェスターに行ってからのパスコーはCATの地下室に机を与えられる。どうやら事件は最近活発に動いている〈テンプル騎士団〉によるものらしい。イギリス国内のイスラム教過激派を次々に殺している組織である。パスコーはダルジールが乗り移ったように積極的に動きはじめる。
一方エリーは夫の留守中にテレビ出演を突発的に頼まれる。イラク戦争のことを書いている作家ヤングマンの代わりだが、その放送中に銃を持った女が現れて大混乱となる。いっしょに出演したモーリスと居合わせた義妹のキルダと知り会うが、彼らはエリーとパスコーに積極的に近づいてくる。
モーリスの弟でキルダの夫であるクリスはイラクで戦死したが、モーリスとキルダが浮気中にかかった電話はクリスが死の直前にかけたもので、その電話で彼の死を告げたのがヤングマンだった。
物語はいまのイラク戦争に従軍した戦士たち、彼らの家族や背景を描き出して隙がない。他民族を否定しようとする純粋イギリス人たちの身勝手さが気持ち悪いほどに描かれている。
一方、ダルジールと恋人キャップ、パスコー夫妻と娘のロージー、ウィールド、それにヘクター巡査と、中部ヨークシャーの人たちのあたたかさと誠実な生き方があって、最後にパスコーは「カンザスに帰ります」(原注「オズの魔法使い」より)と帰ってくる。(松下祥子訳 ハヤカワ・ミステリ1800円+税)