「完璧な絵画」(1994)は、「骨と沈黙」(1990)「甦った女」(1992)に続くダルジール警視シリーズの13作目(うち2作は未翻訳)である。ヒルの作品はほとんど読んだつもりのところで出合った。こんなこと何回も言っているような(笑)。きっちり調べんかいと思うのだが、こういう出合いを楽しんでいるふうでもある(笑)。
なんとなく不思議に思っていたウィールド部長刑事の私生活、古書店経営のエドウィン・ディッグウィードとどうして一緒に暮らしているのか気になっていた。最新作「ダルジールの死」では結婚式を挙げたとあった。本書を読んですべて了解!
退屈なヨークシャーの谷間の緑の草地、澄んだ空気、透明な湖、素朴な田舎エンスクームを舞台にさまざまな人間模様が繰り広げられる。
ある日休暇中のウィールドは皮の服に身を固めオートバイで田舎道を走ってエンスクームに着く。オートバイの人間はカフェに入れてくれず、古書店主からもへんな応対をされて、さきへ進むと警官に止められる。生意気でハンサムな若い巡査ハリー・ベンディッシュに免許証を見せ、びっくりする彼に自然を楽しみにきただけだと告げて、ここではお茶も飲めないと家に帰る。
翌日出勤するとダルジールに呼ばれ、エンスクームが属する地域の巡査部長から、ハリー・ベンディッシュが行方不明という届けが出ているので調べるように言われる。昨日ハリーともめていた男の目撃者が来ているというのでウィールドが行くと、ディッグウィードがいて、ウィールドのことを極悪の人相だったと証言しているのだった。これが二回目の出会い。
そのあとはパスコーと二人でエンスクームへ出かけての捜査活動、他の作品と違うおもしろさで引っ張っていく。エリーの名前はディッグウィードの店に注文した本の包装紙に宛名にあるのだが、これが重要な鍵となっている。
最後にパスコーが自分が理解しきれないウィールドのことを、エリーに聞こうと思うところがあるのが笑えた。きっと「あなたってなにも知らないのね」と言って説明したのであろう。
ここでは大地主を中心の生活が続いており、大地主の家督相続となると私生児や女は厩舎の馬と大差ない地位なのである。実際にすべてを把握し経営している孫娘のガーリーは相続できず、嫌われ者の孫ガイが相続することになっている。相続者指名のそのときウィールドが立つ。
ハリーの行方を追いつつ、郵便物の盗難があり、銃を持った青年は出てくるわ、牧師の恋はあるわ、肉感的な女性画家がウィールドの顔を描かせろと言うわ、おいしいビールを飲ませるパブもあり、田舎の話なのに全世界が詰まっているようなへんな小説である。(秋津知子訳 ハヤカワミステリ 1400円+税)