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その他の女性作家 アーカイブ

2004年02月24日

山本やよいさん訳 アガサ・クリスティー「書斎の死体」

少女時代にドロシー・L・セイヤーズの洗礼を受けてしまったせいで、最初からアガサ・クリスティーに偏見を持っていた。でも、家に探偵小説がたくさんあり、クリスティーもたくさんあったので、好きでないと言いつつけっこう読んだものだ。実は好きだったのかも(笑)。とはいうものの読んだのは若いときのことで、30年くらいは全然手にしていない。
「書斎の死体」を山本さんにいただいたので、絶対読まなあかんし、つまらんかったらどないしょう、感想を書くのがしんどいんとちゃうかと、なぜか大阪弁で考えつつ読みだしたのだが、最初からおもしろくてよかったです(笑)。
「書斎の死体」というテーマで、典型的なイギリスの探偵小説を書いてみせようという、クリスティーの芸が光っている。なんかもう、余裕の一作という感じ。ミス・マープルのシリーズは、まだヴィクトリア時代の光がかすかに残っている、イギリスの田舎の人間関係や暮らしのさまが書かれていて興味深い。ミス・マープルはその田舎の社会を鋭く(意地悪く)観察しながら、生活している老いた独身女性である。
田舎の大きなお屋敷の書斎で、金髪の若い女性の死体が見つかる。その女性は高級ホテルのダンサーで、ホテルに宿泊している実業家が養女にしようとしていた。大金持ちとその周りにいる人たちについてのミス・マープルの観察から事件が解明される。
普通の文庫本よりもやや大判で、文字が大きくて読みやすかった。中身はもちろん山本さんのこなれた日本語で読みやすかった。(ハヤカワ文庫 640円+税)

2004年05月02日

山本やよいさん訳 キャシー・ライクス「骨と歌う女」

女性法人類学者テンペランス(テンペ)・ブレナンが主人公のミステリー第3作である。作者のキャシー・ライクスはテンペと同じ女性の法人類学者だから、丹念に死体の骨を調べるところなど、信頼して好奇心を満足させてもらえる。ちょっと書名がヘンだけど、女性探偵ものらしく真面目すぎるほど真面目な作品だ。
テンペはアメリカ南部のノース・カロライナ大学で教えながら、頼まれてカナダのモントリオールで法医学研究所の仕事もこなす忙しい人である。ブレナンという姓はアイルランド系だとあって、西部劇によく出ていたアイルランド出身の俳優はウォルター・ブレナンだったなんて思い出した。
今回のテーマは「ヘルス・エンジェルス」からの流れにある暴走族による暴力である。1969年オルタモントにおけるローリング・ストーンズのコンサートで名前をはせたヘルス・エンジェルスについては知っていたけど、その流れの暴走族が現在の北米でどんなことをしているかは知らなかった。いまは大組織を維持するために厳しい条例を作って、会員を統制しているという。男性優位の世界で、女性はヒエラルキーの底辺に位置している。女性は買われ、売られ、ハードウェアのように交換され、ひたすら利用され、虐待されているという。
物語はエミリー・アンヌという美しい9歳の少女の額に弾丸が2発めりこんでいた、という書き出しで始まる。その前にアメリカにいたテンペはケペックからの緊急呼び出しを受けて、爆弾で吹き飛ばされた暴走族2人の遺体鑑定作業に取りかかっているところだった。テンペは司法管区の枠を超えて結成された〈クズリ作戦班〉のメンバーとなり、仕事することになる。テンペの仕事場はモルグと解剖室である。猫と暮らす住まいに19歳の甥キットを預かることになるが、オートバイ好きのキットも事件に巻き込まれてしまう。
事件とかかわるところはハードボイルドだけど、甥との関係となるとちょっとウェットになるし、恋人のこととなると乙女のようになるところが少しかなわんけど、暴走族というのは21世紀のマフィアであることをしっかりと勉強させてもらった。(講談社文庫 1048円)

2004年12月08日

パトリシア・コーンウェル「切り裂きジャック」

「白衣の女」を読み終わって、ビクトリア時代続きで読もうと思ったのだが当てが外れた。これは現代ものだった。そもそもミステリファンの姪が送ってくれなければ読むことはなかった本である。なんで読んだのか忘れたが、コーンウェルが大金を投じて(本書の「訳者あとがき」によると7億円にのぼるという)「切り裂きジャック」に挑むという記事があって、なんでそんなことをするのだろうと思ったものだ。この本を読み終わったあともその思いがある。ロンドンの闇夜に電気をこうこうとつけて照らし出したような感じ。わたしが「切り裂きジャック」に興味があるのは、ビクトリア時代後期の暗いロンドンの街と犯罪の物語だからである。
とは言え、さまざまな分野の専門家をイギリスに送って、DNA鑑定、紙の鑑定、コンピュータによる画像処理など、現代最先端の技術を駆使して調査した結果、画家のウォルター・シッカートを犯人と指名するにいたる。その決断には感心した。すごく詳しく「切り裂きジャック」と画家ウォルター・シッカートについて書いてある本です。

2005年03月17日

木村仁良編「子猫探偵ニックとノラ」

『ジャーロ』傑作短編アンソロジーの(1)は、2003年に発行された「探偵家業はやめられない」(サラ・パレツキーの「フォト・フィニッシュ」が入っている)だった。本書はその(2)で2004年12月発行されたもの。うっかり買い忘れていて読むのが遅くなってしまった。
タイトルを見たらわかるとおり猫が活躍する短編集である。9作品のうち3作品が山本やよいさんの訳であることもうれしい。その中でも「青い瞳」はジャネット・ドーソン作で、主人公は長編「追憶のファイル」などでおなじみの女性探偵ジェリ・ハワードである。ジェリはヴィクについで好きな探偵だが、最近翻訳がとまっているのでどうなっているのかと思っていた。木村仁良さんの解説によると9作まで発表されているらしいが、翻訳は4冊しかない。なんとか出してほしいなぁ。
「青い瞳」の内容は、癌で亡くなった女性が姪に多額の財産を残すという遺言書からはじまる。それには愛猫が死ぬまで世話をするという条件がついていた。ところがかんじんの姪の名前が書いてなくて、現実に姪は二人いるという。その書類ミスが故意に行われたと思ったジェリは、聞き込み調査を続けて、本当の姪に遺産は渡されることになる。短編なのでちょっと物足りないが久しぶりにジェリに会えてよかった。
9つの短編にそれぞれ個性的な猫が出てきて、主人公になったり、探偵をして飼い主にヒントを与えたり、殺されそうになったとき悪いやつに飛びかかったりと活躍する。猫好きならたまらないだろう1冊。表紙がちょっと子どもっぽいが、内容は大人向きばかりです。(光文社文庫 590円+税)

2005年07月06日

マクシン・オキャラハン「ヒット&ラン」

下新庄の整骨院に行く地下鉄30分で読むには最近の文庫本は厚すぎる。思いついて押し入れのミステリー箱から古い女性探偵ものを引っ張り出した。ほとんど忘れている状態なのでちょうどよかった。マクシン・オキャラハンの本はもう1冊の「永久に別れを」(1981)のほうがディライラ・ウエストシリーズの第1作なのだが、どこへしまったのか出てこない。間に1冊あるのだが翻訳されず、3冊目が本書「ヒット&ラン」(1989 翻訳1993)である。
1作目はディライラは夫と二人で私立探偵事務所を開いて間もなく、夫に死なれてしまうところからはじまった。ひとりぼっちで探偵稼業を続けようと苦労し、夫を思い出して涙しながら、ようやく探偵としてやっていけるようになって、ほっとしたのが1冊目だった。
サラ・パレツキーのヴィクことV・I・ウォーショースキーが登場した後に出てきた女性探偵たちの中では、軟弱なほうに入るが、なかなかどうして粘りのある調査を続け、根性のあるところをみせる。
1月の南カリフォルニア、夜のジョギングの途中に老人がひき逃げされるのをディライラは目撃する。その年は不運が続く。お金がなくて住まいを立ち退き事務所で暮らすことになる。住まいより事務所を優先する根性がえらい。浴室がないから洗面室で身体を洗い、机のそばの寝袋にもぐりこんで眠る。それから毎月毎月不運が続くが、12月に店内警備員の職にありつく。ところが万引きした客を追いかけたとき、市民に足をひっかけられて怪我をする。どん底。そのとき、依頼人が現れる。老人をひき殺した男の母親であった。(創元推理文庫 550円)
引き続き、女性探偵ものを再読していく予定。

2005年07月12日

ライア・マテラ「殺人はロー・スクールで」

古い女性探偵もの読書第2弾はライア・マテラの翻訳が3冊あるうちの第1作(1987 翻訳は1990 創元推理文庫)。タイトルどおりロースクール内で殺人があり、主人公のアマチュア女性探偵ウィラ・ジャンソンの登場となる。ウィラはロースクールの学生だが、ここに入る前には名門大学でラテンアメリカ文学を専攻したという変わり種。両親は60年代にベトナム反戦運動に加わわったヒッピーで、その後も平和部隊に加わって中南米へ出かけている。両親は籍を入れていない夫婦なので、ウィラは母の姓を名乗っている。
ロースクールにはフットボールのチームがないかわりに〈法律評論〉があると、冒頭に出てくるが、これが大変なものであるらしい。法律学生が編集することになっており、「上位10パーセントと〈法律評論〉」という言葉があるという。大都会の法律事務所や政府官庁で働きたければ、クラスの上位10パーセントに入っていたほうがいいし〈法律評論〉に加わっていたほうがいい。ロースクールは、大学を卒業して学士号をとって、はじめて入る資格を得るむずかしいところだそうだ。そして3年間勉強して試験に合格したら、その州の弁護士資格が与えられる。ライア・マテラはカリフォルニア州の弁護士でもある。
その〈法律評論〉の編集長が殺され、第2第3の殺人事件が起きる。ウィラは犯人探しに頭をつっこみ、憎からず思っているラリーから「ナンシー・ドルー、きみはどう思う?」と聞かれてごきげんだ。昔ナンシー・ドルーが大好きで、友だちから「まあ、ナンシー、あなたってなんて頭がいいの!」と言われる場面が好きだったという愛嬌のある女性である(ナンシー・ドルーを知らないなんて言わないでね)。

2005年07月31日

リンダ・フェアスタイン「誤殺」

毎月新しいニュースを送ってくれるメールマガジン「海外ミステリ通信」の7月号は「元気な女性主人公たちを応援しよう!」と題して、検事補が3人、殺人課刑事、火災捜査官の肩書きのある5人の女性主人公の紹介があった。最近はあまりミステリーを読んでいないので、ちょっと勉強しなきゃと、まずリンダ・フェアスタイン「誤殺」を買ってきた。
最近は姪が熱心なミステリーファンになって、読み終えた本を送ってくれるので、こちらもお返ししようと、これを読んだら送るねと掲示板に書いた。姪のほうは覚えのあるタイトルの本だと思って探したそうで、そしたらちゃんとこの本があったんだって。メールを読んでびっくり(汗)。いやぁ、ほんまに全然覚えてなかった。ここに感想を書いてないということは、書くまでもないと思ったのかな。読んでいて知っているようなストーリーだとは思っていたんだけど(笑)。
検事補アレックス・クーパーはマンハッタン検察庁性犯罪訴追課長という要職にあり、仕事熱心で周りに認められているし、保守的な上司や裁判官たちとやり合って主張を通すのにがんばっている。私生活では裕福な家庭の出身で高級マンションに住み、ニューイングランドの美しい島に別荘を持っている。そして、デザイナーブランドの服に身をつつみ、高級ウィスキーを好み、バレエのレッスンで体型を保っている。料理嫌いでピザ宅配の電話番号が親族の次に書いてある。ピザといっても高級店だが。
恋人もお金持ちだし申し分のない生活のはずが、友だちの女優イザベラに別荘を貸したことから事件の渦中に巻き込まれる。気の合う刑事マイクや隣人の精神科医デイヴィットに助けられて事件はうまい具合に解決するのだが、そこまでがしつこく長い。ハーレクインロマンスみたいな恋人とのつき合いを読んでいると「こりゃなんや」となる。仕事ができることと、私生活をきちんとできることとは別なんだとわかった。
地を這い、池にもぐって調査を進めるヴィクの物語をまた読み返したくなった。(ハヤカワ文庫 940円+税)

2005年08月22日

ライア・マテラ「殺人はラディカルに」

先月読んだライア・マテラ「殺人はロー・スクールで」に続く第2作「殺人はラディカルに」は、主人公ウィラ・ジャンソンがサンフランシスコの弁護士事務所に就職して新米弁護士として月並みな仕事(離婚、家主と間借人のいざこざ、酔っぱらい運転の弁護など)に励んでいるところからはじまる。所長のジュリアンが世に知られるようになったのは、ミシシッピー州の公立学校の人種差別を撤廃させる訴訟だったせいで、リベラルな弁護士事務所として知られている。が内情はそうでもない。
銀製のワインクーラーが使われている高級レストランで事務所のメンバーたちと食事中、ジュリアンがドクニンジン中毒で倒れる。ムースのつけあわせの果物や花の形に切ったのを食べたせいだ。彼がいつも食べる癖を知っている人間の仕業だ。
前回も出てきたスルジェラート警部補は、今回も君が容疑者になっていると告げる。なんとジュリアンの遺言書には豪壮な家の相続人をウィラの母に譲ると明記してあったのだ。彼と母の付き合いは25年にわたるが、それくらいの付き合いの人は他にもいるのになぜ母なのか。
ウィラの両親はこれ以上ないというようなラディカリストで、原水爆禁止大会で出会い、放浪生活ののちサンフランシスコに落ち着き、平和部隊に加わりという活動を現在も続けている。ウィラは両親の影響をまともに受けて育った。
1988年の作品なのだけれど、ウィラの両親の言動から1960年から70年代のことが透けて見える。当時のアメリカの良心を代表してきて、いまもそうしようと思っている人間にはとても酷な様相になった時代をウィラは見つめて生きている。
ウィラは30代半ばの小柄で金髪の女性。一人暮らしで部屋を片付けるのが苦手だ。得意はやっぱり!へらず口である。(創元推理文庫 430円)

2005年08月30日

ライア・マテラ「あらゆる信念」

「殺人はロースクールで」「殺人はラディカルに」に続く、女性弁護士ウィラ・ジャンソンが主人公の翻訳3作目(実際は4作目だが3作目は訳されていない)。とても非情な内容で読むのがしんどかった。そしてウィラの純真さに心を打たれた。
扉にあるイェーツの詩「再来」の一節が内容を暗示している。
  優れた人々は一切の強い信念を失い、
  極悪の輩は烈しい熱で張り切っている。
ウィラはLAで勤務弁護士として働き、市場価値の高い四年目の弁護士となっている。だが、弁護士の仕事に嫌気がさして、サンフランシスコへ帰り、これからの1年間をシャンナ判事のもとで調査官の仕事をしようとしている。
両親は感情的にのめりこむタイプの活動家で、ずっと平和活動にたずさわってきたし、自分が食べなくても人に食べさす生活を続けて来た。だからウィラがLAで普通の弁護士をしたことを、社会的に役に立たない就職をしたと腹を立てている。サンフランシスコの両親の家に着くと、ポーチの階段のそばに昔の知り合いの私立探偵ハーシーが立っていた。
ハーシーから頼まれて、いやいやある夫婦の仲に介入する仕事を引き受けたのだが、その夫はウェラの上司シャンナ判事の仕事に関わりがあるのがわかる。そこらへんから、だんだん過去の事件や、両親が関与していることなどが明らかになり、大物弁護士からの圧力もかかる。また2作目で好きになった警部補との再会があるが、彼は別れた妻とよりを戻していた。
ウィラは金髪で身長155センチ。悩んではマリファナを吸う。「銀行や企業のためにではなく、人民のために仕事がしたいんです」なんてアソシェイトとして自分の事務所に来ないかと誘う、左翼の大物弁護士に言うのだが、軽くいなされる。そして、政治という鏡をのぞきこんだら、吸血鬼のようになにもうつっていなかった気分になる。
最後はセラピストとの会話で、どこからはじめますかと聞かれて、「けさ、ゴールデン・ゲート・ブリッジからマリファナを投げ捨てました」。
1991年にこの物語は書かれ、92年に翻訳されたが、その後ウィラの物語は書かれたのだろうか。このころは翻訳女性探偵小説の花盛りだった。お陰でたくさんの女性探偵を知ることができた。このシリーズ読み返してよかった。(創元推理文庫 500円)

2006年03月23日

〈冒険小説+ハーレクイン〉マーク・バーネル「素顔なき女豹」

素顔なき女豹 マーク バーネルさきにヘニング・マンケルのヴァランダー警部シリーズと、グレッグ・ルッカのボディーガードものアティカス・コディアックシリーズを教えてくれたYさんからの推薦図書である。おすすめ3冊のうち1冊を買った。タイトルがちょっとなあと思ったんだけどね。
厚いけどすぐに読めたということはおもしろかったんだ。だけど好みではないのは、読み出してすぐにわかった。社会主義国家が崩壊した後の混沌のロシア、そしてロシアマフィアを扱った小説はたくさんあるに違いない。わたしの好むところでないので読んだことはないが。
物語は映画「ニキータ」やそのリメイク版「アサシン」の女主人公がその任務をおりて、日常生活を取り戻して生活している場面と、同じところからはじまる。せっかく取り戻した普通の生活に過去からの呼び出しがかかるのだ。断りようのない誘いにのって暗殺者として再び仕事をはじめる。しっかり冒険小説ではじまるのだ。しかし、仕事に関連して出会ったロシア人実業家コマロフと愛し合う。それがかっこいい男で、やってることもかっこよすぎ。なんとまあすっかりハーレクインロマンスの香り。嫌いではないが甘過ぎ。最後にひねりがあったのでまあいいか。(ソニーマガジンズ ヴィレッジブックス 1250円+税)

2006年11月28日

ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」を読んで思ったこと

あなたに不利な証拠として ローリー・リン ドラモンド最近は新刊書を読むのに慌てなくなった。昔なら新聞や雑誌の広告を見ると、発刊日にならないのに本屋で探したりしたものだ。雑誌なら駅売りだと前日に出すので「アンアン」を買いに駅まで行ったりした。いまは買うと決めている本を早く手に入れようとがんばらない。アマゾンに注文しようかなと言いながら、梅田へ出かけるまで待つことが多い。
本書は早川書房の広告(2月15日発行予告)で知って、新しく紹介された女性作家だし、女性警官のことを書いているらしいから買って読もうかなと思った。だが買うのを忘れていた。女性私立探偵シリーズではこんなことはないのにね。
3月12日の朝日新聞書評欄に池上冬樹氏の紹介文が掲載された。えらい褒めてあるので引いてしまった。でも最初から買う気だったんだからと、改めて本屋で買おうとしたら、置いてない。朝日新聞おそるべし。増刷まで2週間待ってとメモ書きが貼ってあった。そんなわけで手にしたのは6刷(4月22日)とかなり後のことである。たくさん売れたんだ。しかし良かったとも悪かったとも、全然わたしのところには声がとどいてない。だれが買って読んだんだ?
そうして手に入れたのだが、本をめくると辛気くさそうですぐに読む気が起こらない。先日までおいてあったが、整骨院で待ち時間に読む本がなくなったので読み始めた。たいていの本なら我慢できずに続きを家で読むのだが、この本は我慢ができて今日整骨院で読み終えた。短編集のせいもあるが。最後の一編はほろりとした。

著者はアメリカテキサス生まれ。ルイジアナ州バトンルージュ市警で制服警官として5年勤務のあと交通事故に遭い30歳で辞職。ルイジアナ大学で学び、大学で教えながら執筆に励んでいるそうだ。
本書は12年にわたって書かれたもので、5人の女性警官の物語が、キャサリン3話、リズが2話、モナ2話、キャシー1話、サラが2話ある。複数あるのは連作になっていて、先の主人公が次にこういう人生を歩んでいるという話になる。それぞれ繊細な気持ちを持ちつつ日々の勤務につき、上司や男性警官との軋轢に耐えたり反撃したりの生活を描いている。警官同士で結婚した人もいるし、独身の人もいる。結婚した相手の昔の汚点がいま暴かれる人もいる。結局警官を辞める人もいる。
読んでいていいなと思ったのは、男性女性の警官が混じってしゃべったり飲んだりするところ。もう女性警官だと肩肘張らなくても男女いっしょに普通にグループをつくっている。女性私立探偵が男性社会に切り込んだ時代から20年以上経っているもんね。
わたしの好みではないのは純文学ふうなところかな。わたしの苦手なジョイス・キャロル・オーツに似ているところがあるなと思ったのだが、「訳者あとがき」にも2作目がずっしりと重くてオーツを思わせると書いてあった。純文学的に書く人がいて評価されてそれはいいんだけど。
だけどわたしは思う。9.11以降の世の中の動きに対して、サラ・パレツキーが「ブラック・リスト」で行った彼女の思想の表明について、単なる女性私立探偵ものとしてくくってしまっていいものか。なんで朝日新聞は本書を大々的に取り上げて、「ブラック・リスト」を取り上げなかったのだろうか。(ハヤカワミステリ 1300円+税)

2007年04月27日

アン・ペリー「十六歳の闇」を読んで見た夢

十六歳の闇 アン ペリー昨夜は日記やミクシィを片付けたあと、眠るまでアン・ペリー「十六歳の闇」を読んでいた。ちょっと軽いなと思って寝ついてしまったのだが、明け方自分の寝言、「わたしがついて行ってあげるから・・・」という大声で目が覚めた。なんとまあ本書の主人公シャーロット・ビットになりきっていた。しかもそれからまた寝ついたと思ったら、内容は忘れたが殺人事件を推理している。これはちょっとやばいかも。今夜から寝る前に読む本は絵本か童話にしよう。

ミクシィのコミュで馬車が走るロンドンが舞台だと教えてもらって、はじめて読んだのだが、本書はアン・ペリーのトーマス・ビット警部と妻のシャーロット・ビットものの6作目。ヴィクトリア時代のロンドン、銀行家の3人娘の次女シャーロットは独立心の強い娘で、姉が連続殺人事件の犠牲になったとき、担当したビット警部と身分の差を超えて結婚する。妹のエミリーは反対に貴族と結婚して伯爵夫人となっている。結婚以来シャーロットは夫の担当する事件の解決に協力してきた。
今回はスラム街の中でも危険な場所、テムズ川の流れをせき止める大水門に流れ着いた死体が見つかったことからはじまる。死体は上流階級の16歳の少年だった。溺死といっても川ではなく浴槽で殺されたらしいこと、最後の食事は豪華なものだったこと、しかも初期の梅毒の症状があり、同性愛者と性交渉をもっていたのがわかる。
ビットは貴族の家に聴き込みに行くが、なかなか話をしてもらえないし、上司はビットの態度が気に入らない。証言によって少年の家庭教師ジェロームが逮捕されて裁判が行われ、死刑判決がでる。ビットはなにか腑に落ちない思いで、シャーロットに話をする。ビットにはできないが自分ならできると、シャーロットは貴族階級の家に入り込んで探るべく、妹の協力を得ようとする。
しっかりした大伯母は二人とともに、お茶やパーティに出かけて協力する。【わたくしたちと労働者階級の基本的な違いは、わたくしたちにはそのほとんど見えないものを見るだけの時間と機知があるということ。これこそまさに上流であることの神髄なのよ」】そして子どもの売春の反対運動をやろうという話にまで発展する。

2007年08月05日

最後まで読めなかった本 リサ・ラッツ「門外不出 探偵家族の事件ファイル」

門外不出 探偵家族の事件ファイル [ソフトバンク文庫] (SB文庫 ラ 2-1) リサ・ラッツわたしが自分で選んで買った本にハズレはほとんどないが、残念ながら今回はハズレだった。人に借りた本ではたまにある。10年くらい前に若い友人が貸してくれた「ブリジット・ジョーンズの日記」は、あとで見た映画はおもしろかったが、小説のほうはおもしろくなかった。そう言うと「若いひと向きやからね」と言われたけど、その友人も2册目はお手上げだと言っていた。その間に年を取ったのか(笑)。
この本は通りすがりの本屋で平積みしてあった。会社勤めの女性がよく立ち寄る店なんだろう。たまには新刊の女性探偵物を読んでおこうと思ったのだが、ハズレで残念。
今年3月アメリカで発売され、世界22カ国に訳され、パラマウントで映画化が決まっているそうだから、きっとおもしろい小説なんだろうと思う。

サンフランシスコの家族経営の探偵事務所の物語で、長男のデヴィットは生まれたときからきちんとしていて賢く弁護士になり、次に生まれた主人公のイザベルは正反対である。その下のレイはもっとすごくケッタイな娘に育つ。みんな調査や尾行をへのかっぱでやるので、家族間のプライバシーなんかない。それでいて(それだからこそ)家族愛がたっぷりあるのだ。夜中に帰って窓から入るのはしょちゅうだけど(わたしも一度やったことはあるが)、それなら家出して独立したらええやんかでは家族愛小説ではなくなるか。途中までの感想です。(ソフトバンク クリエイティブ 750円+税)

2007年10月17日

エリン・ハート「アイルランドの棺」

去年(2006年)の1月に出た本で、買おうかなとだいぶ迷った末に買わなかった。図書館で見つけたのだが、いまわたしにとってアイルランドについてはすごく時期がよいのでこれでよかった。なにしろケルトミステリー(ピーター・トレメイン)とケルトファンタジー(O.R.メリング)を読み終えて感嘆しきりだし、アイルランドの地図がかなり頭に入っているし。

長い作品だが退屈せずに読めた。これが長編デビュー作というからびっくりだ。エリン・ハートはアメリカ人だがアイルランドに惹かれて何度も出かけているうちに、ボタン・アコーディオン奏者の夫と知り合った。アイルランドの作家なら当たり前で書かないところも、アイルランドを紹介しようとする姿勢があるので、わたしらには親切だ。ルーツを探りにやってきた新品のアランセーターを着たアメリカ人たちとか、アメリカ人に対する皮肉っぽいところもあっておもしろい。

アイルランド中西部ダーク湖岸の湿原で、泥炭層から泥炭を切り出していた農夫ブレンダンが、死体らしきものを発見する。考古学者コーマックは、アメリカ人でトリニティ・カレッジ医学部の解剖学の講師をしているノーラが、泥炭地の死体に関心を寄せているので連絡し、いっしょに発掘調査をすることにする。すぐに死亡時の状態をほぼ保った赤毛の女性の死体が出てくるが、頭部しかなく、しかも首に処刑されたらしい痕がある。
一方、地主のオズボーン家では妻ミーナと子どもが2年半前に行方不明になっていて、その死体はミーナかと思われたが違っていた。いろいろと調べると赤毛娘は時代を遡ること300年、クロムウェルの時代の人間だとわかる。
地主のオズボーン家はクロムウェルの時代にこの地のカトリック教徒を制圧し、地主を追い払って、カトリック小作人を支配したという歴史があるので、村の人たちからは一線を画されている。
コーマックとノーラは赤毛の娘を、刑事デヴァニーは行方不明者を追って捜査を進める。やがてミーナと子どもの遺体が見つかる。

歴史的なことがらと、複雑な現在の人間関係とをうまくまとめた作家の力量に感心した。コーマックとノーラの関係や、オズボーンの家族のことなどの描写に甘さがあるが・・・。
それから、村の人が楽器を手に集まって酒場でセッションをやるところがよかった。そこでノーラが唄うのがアイルランド民謡らしく歌詞がよい。どんな旋律か聴いてみたいものだ。(宇丹貴代美訳 ランダムハウス講談社 950円+税)

2007年12月18日

シェトランド島つながり

シェトランドといえばシェトランドセーターしか思い浮かばなかったが、この間からアン・クリーヴスの「大鴉の啼く冬」(創元推理文庫)を読みはじめて、えらい北にある島なのだと認識したところである。
川出正樹氏さんによる解説に、この島を舞台にした作品はイアン・ランキンの「黒と青」と、もう1冊ダンカン・カイルの冒険スパイ小説の2冊しかないと書いておられる。とはいえ、両方とも複数の舞台の一つであって、全編をこの最果ての島にしたのは本書がはじめてだそうだ。
ということなので、イアン・ランキン「黒と青」を出してきて、シェットランド島にリーバス警部が行くところを探した。リーバス警部はスコットランドはエディンバラの場末の警察署に勤務しているが、事件を追ってアバディーンからシェトランド島のサンバラ飛行場までヘリコプターで飛ぶ。アバディーンから島までフェリーで行けば14時間かかるそうだ。なんと北緯60度、もうちょっとで北極である。
迎えにきた島の警官はリーバスの手伝いをするつもりだったが、リーバスが断ると「でも、わたしは警察に20年勤めているんですよ。これが初めての殺人捜査なんです」と言うくらいの犯罪と無関係の土地なのだ。
その島で女子高校生の絞殺死体が発見される。シェトランド島の警察官ペレス警部の着実な仕事ぶり。あと三分の一読めば全貌がわかる。早く読も。

2007年12月21日

アン・クリーヴス「大鴉の啼く冬」

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫 M ク 13-1) アン・クリーヴスはじめての作家だったが書店で手にしてなんとなく良さそうだと思った。解説に2006年度英国推理作家協会賞最優秀長編賞を受賞したとある。著作リストを見たらすでにたくさんの作品を書いている人で、本書は19冊目にあたる。そして〈シェトランド四重奏(カルテット)〉の第1作となる。アン・クリーヴスはシェトランドの春夏秋冬それぞれの季節に合わせて四重奏を奏でる予定だそうで、第2作はもう脱稿したということだ。本書がたくさんの人に読まれて次作も翻訳されることを願う。

本書はイングランド本島からはるか離れた、北海の北のあたりに浮かぶシェトランド諸島の一つの島が舞台となっている(ただし作品に書かれているのは創作した村だそうだ)。年中吹き荒れる強風のために木が育たないという極寒の地である。寒さの描写がしっかりと書かれているので、登場人物といっしょになって冷え込む気分になる。熱いお茶を飲むシーンでほっとしたり。

独り住まいのマグナスは元旦なので窓に灯りが見えれば誰か来るかと、暖炉で泥炭を燃やし、ウィスキーと菓子を用意している。だがこの家には8年間だれも来たことがない。うとうとしていると娘が二人がいたので中に入れる。女子高生のキャサリンとサリー。
5日後に美貌で才気煥発なキャサリンの絞殺死体が雪の中で発見される。発見したのは画家のフラン。ロンドン出身だが当地の有力者ダンカンの前妻で、娘のキャシーと二人暮らしである。
警部ペレスは他の島の出身で本土の警察にいたが、離婚した後この地へ〈栄転〉してきた。
マグナスは知的障害があり、保護者の母親が亡くなってから、だれにも相手にされずに暮らしている。8年前に行方不明になった少女を殺したと噂されてもいる。今回の事件のいちばんの容疑者として逮捕されるが、ペレスには納得がいかない。

この島ではだれがなにをしても翌日にはだれもが知っているという村社会である。その中でのけ者のマグナス、よそ者のフラン、キャサリンも転校生だった。ペレスも他の島の出身だ。そういう彼らの気持ちや行動もよく書かれている。傍若無人なキャサリンに対して、殺意を抱いた犯人の気持ちもよくわかる。

ペレスはフランに淡い恋心を抱くが、そのままというところがいい。ヘンに好きあったりしないところが大人の小説だ。(玉木享訳 創元推理文庫1100円+税)

2008年02月29日

女性探偵華やかなりしころ

ミクシィでわたしが管理人をしている「私立女性探偵たち」コミュニティのトップページには、参加メンバーの手によってたくさんの女性探偵や女性警官の名前が並んでいる。そこを見て読書する人もいて、最近ナンシー・ベイカー・ジェイコブスの「楔の青」と「復讐の赤」を読んだとコメントがあった。実はわたしが推薦したのだけれど、良かったというだけで内容を忘れている。2冊とも1994年の発行だからずいぶん日にちが経っていると言い訳しているが、ほんまに忘れるもんやなぁ。子どものときに読んだほうが覚えているような気がするが、それは何度も反芻しているからだろう。
それでいま「楔の青」を再読しているが、ところどころしか覚えていない。このころは翻訳の女性探偵ものが大流行りだった。うしろのページにある広告を見ても、サラ・パレツキーとスー・グラフトンとリリアン・J・ブラウンは各5冊の他、ナンシー・ピカードやアネット・ルーム、リンダ・バーンズがある。
このブログに先立つヴィク・ファン・クラブサイトにある日記を書き出したのは1998年9月だから、そろそろ10年になるのだけれど、女性探偵隆盛の時代は過ぎていたようで、取り上げているのは少ないと思う。思い立って読みかけたときもあるのだが、挫折しているのでこれを機会にぼちぼち読み返えそう。いまある本だけでも大変なのにできるかな?

2008年03月01日

ナンシー・ベーカー・ジェイコブズ「楔の青」

サラ・パレツキーのヴィクシリーズをはじめとする、たくさんの女性探偵ものが訳された時代があった。いまから10年〜20年くらい前のことだ。たくさんあったが読むうちにこれだという基準がだんだんできていったみたいで、いま手許に残っているのはすべて生真面目な探偵たちを描いたものである。アメリカの作家たちがその時代を書き、それを日本のわたしたちが共感を持って受け入れたという時代があったのだ。

本書は実際に私立探偵をしたことのある作者による女性探偵物語である。主人公のデヴォン・マクドナルドはミネソタの〈シャーマン&マクドナルド探偵事務所〉で働いている。教師から転職し、パートナーに昇格させてもらったばかり。結婚して子どもが一人いたが、その子を事故で失った。夫が蒸発したため一人で狭いアパートで暮らしている。好意を持った人の言葉によると「遠慮のないものいいをする、ストロベリー・ブロンドの女性」である。

ある日ドクター・レヴィがやってきて、彼の息子ディヴィットは白血病で骨髄移植しか助かる道はないと言う。そして、レヴィが20年前に医学生だったとき、アルバイトで不妊治療に取り組む診療所に精子を提供していたことがあったと言い、この世にいるかもしれない息子の異母きょうだいを探してほしいと依頼する。デヴォンは該当する子どもの親ホフマンを見つけるが、彼は人種差別主義者であり秘密結社に所属していた。黒人をアフリカへ帰せというような運動をする集団である。ホフマンの息子タイラーは父親と全然違う頭の良い少年で教師にも目をかけられている。そしてタイラーはホフマンと血がつながっていないとわかって舞い上がらんばかりに喜ぶ。そんなときホフマンが殺されレヴィが犯人として逮捕される。
しぶとい調査によって真犯人を見つけるデヴォンはカッコいいというよりも、読者と等身大と言ったほうが似合う感じの人である。でもこれだけねばれる人はそうざらにいない。

2008年03月03日

ナンシー・ベーカー・ジェイコブズ「復讐の赤」

ナンシー・ベーカー・ジェイコブズのもう一冊「復讐の赤」を大急ぎで読み終えた。本書の訳者あとがきには、シリーズ3作目が本国アメリカで刊行されたとあるが、翻訳はなかったようだ。
実は今回の読書は先日亡くなられた訳者高野裕美子さんの追悼読書でもある。ネットニュースの訃報で2月10日にくも膜下出血で亡くなられたことを知った。そのときは高野さんの訳書を思い出せなかった。それからすぐミクシィのコミュ「私立女性探偵たち」に「楔の青」を読んだと書き込みがあり、どんなんだったかなと押し入れから出したら、高野さん訳だったのだ。なんだか縁を感じてもう一冊も読むことにした。

私立探偵デヴォン・マクドナルドの事務所へ二人の女性がやってくる。同じ男ピーターズに結婚を申し込まれてころっとだまされ、財産を取られてしまったと言う。中年の冴えない男だが、聞き上手で女性の心をうまくとらえるのだ。デヴォンは三人目の被害者を捜し出し、三人がまとまって彼と対決すれば解決できるると考える。デヴォンは彼に金持ちの未亡人を装って近づき、カーメルにある山荘を借り受けて対決の段取りを組む。
対決は思ったようにいかず逃げられてしまう。翌日ピーターズの死体が山荘の近くで発見される。車に乗ったデヴォンはブレーキがきかず木に激突して大けがをする。ブレーキにだれかが細工したのだ。その後、被害者の一人が死んだのが自殺と認定される。彼女がピーターズを殺して自殺したということで事件は終了する。
カーメル警察のハンサムなウィンスロップ警部補は彼女に好意を持って食事に誘ってくれる。顔の傷跡を気にしている彼女に「そんなに自分を卑下するんじゃない。・・・きみがすばらしい美人だということも知っている」と言ってくれる。子どもの頃から他人にけなされる前に自分のあら捜しをするようなところがあったと反省するデヴォン。恋愛小説としてもいけてる。
久々に帰ったミネソタは出発したときよりも暖かくてマイナス15℃で新雪が5インチ積もっている。納得のいかないデヴォンは真犯人を捜そうと必死で頑張る。(高野裕美子訳 ハヤカワ文庫 600円)

2008年04月09日

ジョセフィン・テイ「裁かれる花園」

ピンクのお花畑の華やかな表紙に惹かれて手に取った。最初のほうを開いてみたら、まるでドロシー・L・セイヤーズの「学寮祭の夜」だ。ハリエットが学寮祭に行って寮の学生の部屋に泊まったシーンを彷彿させる出だしなのだ。

ジョセフィン・テイの作品では「時の娘」(1951)を読んだことがある。グラント警部シリーズとして他の作品も紹介されているらしい。
「裁かれる花園」(1946)はノンシリーズで、主人公は心理学者でベストセラーを出したルーシー・ビム。彼女はフランス語教師をしていたが、親の死で遺産が入ったので退職し、呑気な生活をするようになった。好奇心で心理学の本を読んでばからしくなり、ほかのもこんなのかと三十七冊読破して、心理学に対する独自の見解をもち、反論を書き出した。ある日、階下のラジオの音がうるさいので、気をつけるようにメモを書いて届けたら本人がやってきて、ラジオのことでなく、メモの裏の心理学の見解を読んでこれを本にしたいと言う。いざ本が出ると時流に乗ってベストセラー作家になっていた。
講演にも慣れたルーシーに昔の学友ヘンリエッタから講演の依頼がくる。ヘンリエッタは二年制の体育大学の学長をしている。

講演は大成功で、翌朝寮の一室で目覚めたルーシーはやかましい学生たちから逃れてロンドンへ早く帰りたい。しかし学生から滞在期間を延ばしてほしい、明日お茶にお迎えしたいと言われて滞在することにする。その後も学校での生活がけっこう楽しくなり長逗留することになる。
学生たちと教師たちとのやりとりやつき合いの描写がうまくて飽きない。村のパブへ連れていってくれたブラジル出身の学生やその恋人も自然に描かれている。
そして学生たちの個性がそれぞれいろんなエピソーで綴られ、出身や頭脳や就職について、この子はこうだと読者も腑に落ちる。
就職先の斡旋で学長が最低なラウスの推薦に固執し、誰から見ても決まって当然だった優秀なイネスが外れる。それから事件が起こる。ルーシーは証拠品を見つけるが・・・。(中島なすか訳 論創社 2000円+税)

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