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ウィーン・ミステリー / ベルリンノワール アーカイブ

2007年07月15日

ウィーン・ミステリー エルンスト・ヒンターベルガー「小さな花」

小さな花 エルンスト ヒンターベルガー現代ウィーン・ミステリー・シリーズ全9冊の中の1冊。エルンスト・ヒンターベルガーは1931年生まれの生粋のウィーン下町っ子作家だそうだ。本書は1984年以来書き続けている8冊の刑事小説の中の1冊である。舞台となるジンメリングは、空港からウィーン市内に行くとき通過する殺風景な地区で、中小の町工場と集合住宅が混在するところである。
女性の巡査部長モニカ・ズットナーはこの日、警視庁刑事部殺人犯捜査課二係に配属されて出勤する。みんなに紹介されて、老練なオットー・ホットヴァーグナー警部補につくように言われる。タバコの煙がもうもうと立ちこめる刑事部屋だが、コーヒーがうまそう。それに警察食堂のご飯がおいしそう。さすが古都ウィーンだ。
アメリカやイギリスの警察小説とどことなく違っていてヨーロッパという感じがする。そして東欧諸国からの移民問題や人種問題の複雑さもある。
オットー・ホットヴァーグナー警部補は一人暮らしで、30キロも体重オーバーなのに、ビールをがぶ飲みし大量の肉を食べタバコを絶やさない。ええかげんにせんといつ倒れるか分からへんでとこっちがひやひやする。みんなで仕事中にレストランに行くと、みんなが注文した定食ランチ〈魚のスープと団子つき内臓煮込み料理〉を、そんな水っぽいもん食べられるかと、2個の団子つきブルゴーニュ風焼き肉と大量のポテトサラダを注文する。もう一回読んで料理名を書き出しておかなくっちゃ。

シュトイジッツという男が受付に娘イロナの行方不明を届け出た。ウィーン中の警察にイロナに関する情報が流されるが行方はわからない。数日後ドナウ川で少女の水死体が見つかりイロナだと判明。絞殺されていた上にイロナの体に性的虐待の跡が見つかる。調べていくうちに父親が虐待していたのを母親が黙認していたこともわかる。そうこうするうちに父親が殴られて死んでいるのが発見される。
刑事たちの地道な捜査が続くがなかなか事件の真相は見えて来ない。そのときモニカがほんの思いつきだけど、アメリカの小説にこんなのがあると言い出す。それが取り上げられ再度の調査の末、真相が見えてくる。(水声社 1800円+税)

2007年08月30日

ヘルムート・ツェンカー「マン嬢は死にました。彼女からよろしくとのこと」

マン嬢は死にました。彼女からよろしくとのこと へルムート ツェンカー「現代ウィーン・ミステリー・シリーズ」全9巻の1冊。この前同じシリーズのエルンスト・ヒンターベルガー「小さな花」を読んだときはヨーロッパの作家だなと感心した。スウェーデンの作家ヘニング・マンケルの雰囲気と似たところがあるが、もっと官能的でコーヒーやお酒や食べものがおいしそうだ。
「マン嬢は死にました。彼女からよろしくとのこと」の主人公の女性私立探偵ミニー・マンは22歳。身長が1メートル20センチの障害者で松葉杖をついていて、それが武器になることもある。シュテファン大聖堂(私にはどこか見当もつかないが)近くに事務所をもっている。アシスタントのジョーイは大食漢の31歳でたまに学生。
ミニーは障害者向けの雑誌にパートナー募集の広告を出す。間抜けな健常者は障害者のほうがお手軽に扱えると思っているのであろう。相手の男をホテルに連れて行き、年取った売春婦ギティを部屋に行かせる。終わったあとでギティは上機嫌でウィスキーをおごる。ミニーは酒飲みである。

ある日、男が二人やってきてミニーをトランクに入れて連れ去る。着いたとき、胡椒とマジョランの匂いがするのはウィーンでここしかないと場所を特定。連れて行かれたのはゲーム機メーカー経営者の女性の隠れ家だった。男社会のライバルたちが役所を味方にしたので、警察から逃げているという。依頼は失踪した夫を捜してほしいというもの。素早く失踪者を探し出すが、彼は殺されてしまう。
死体が増えて警察官がはりつくようになると、ミニーは警官とジョーイの同意を得て死ぬことにする。【死者としてなんの制限もなく好きなように町中に目を光らせよう】と、新聞、放送局等では死んだことにして、トランクに入りジョーイがかついで〈ウィーンの森〉に運ばれる。
いろいろあって事件は解決するが、そのあとの仕事がケッサク。美貌のスリを見つけて盗難品を依頼人に返すことができるが、そのスリに体を触られて反応してしまう。ここまでしか書きません。(水声社 1400円+税)

2007年09月24日

ウィーン・ミステリー ペーター・R・ヴィーニンガー「『ケルズの書』のもとに」

『ケルズの書』のもとに ペーター・R. ヴィーニンガー「現代ウィーン・ミステリー・シリーズ」全9巻の1冊。訳者によると本書はシリーズの第一巻なのだが、有名な『ケルズの書』がテーマなので、資料を読むふけるうちに嵌ってしまい、仕事が進まず最終配本になってしまったそうだ。
わたしも書いてあることを大雑把にでも知ろうと、『ケルズの書』の写真を眺めたり、ゾロアスター教のことを検索してあちこちしたりと時間がかかった。ていねいな解説もあって、古代からのヨーロッパの宗教や政治がおぼろげながらわかってきておもしろく読んだ。

話は802年のノルウェーのトロンヘイムからはじまる。ドルイドの女祭司がいてどうこうあって、イオナ島の方角を凝視しているところ。
次は1992年のウィーンで、シュタインヴェントナーという経財省のお役人が本書の主人公なんだけど、彼が真新しいホンダプレリュードで走っていて男を轢いてしまう。ひき逃げしてその車をよそまで持って行き、自分の荷物を取り出して逃げることにする。そのとき轢いた男が持っていたに違いない鍵のような物に気づく。車を盗まれたことにして警察に届けるが、車が戻ってきたと警察から連絡を受けてとりにいくと、同じホンダだが違う車であることに気づく。
次は802年のイオナ島(スコットランド北西海岸)となる。数章あとはシーナナス・モール(アイルランド)となり、ケルズ修道院が登場する。こんな調子で、時代と場所があちこちし、『ケルズの書』ができるまでの工程も記され、それが盗まれてトネリコの木に隠されたのを修道士が発見したとか。そしていまあるダブリンのトリニティ・カレッジに納められたいきさつもある。カレッジへ書を運んだアイルランドの大司教は、自らの人生においていまだかつてこんなにへりくだった態度をとったことがなかった、そしてアイルランド国民も、と書かれている。そのあとは『ケルズの書』の復刻版をつくる話がある。
一方、シュタインヴェントナーが鍵を持ったままなので、悪漢(?)のほうは妻を脅したり、攻撃をしかける。いろいろな事件を総合してフンメル警部はシュタインヴェントナーを警察に呼んで話を聞くが、話そうとしたとき「お前は選ばれている」と声が聞こえ、突然痙攣を起こして倒れてしまう。彼はやってくる深淵を感じる。

ミステリー仕立てだけど、奇書みたいなのが好きな人が読んだらおもしろいだろうと思う。ゾロアスター教という名前しか知らなかったので、この機会にいろいろと知ることができてよかった。(水声社 1800円+税)

2007年10月25日

ウィーン・ミステリー 8人の女性ミステリー作家による短編集「血のバセーナ」

男性作家3人の作品のあと手にしたのは、ミヒャエル・ホルヴァート編集による女性作家8人による1冊。全9冊のうち男性作家が8冊である。分厚くはあるが短編集というのはなんでやと思ったが、訳者あとがきを読んで納得した。「美しき青きドナウ」などのニューイヤーコンサートで有名なウィーン・フィルは、つい2・3年前まで女性に対して門戸を開こうとしなかった(2002年現在で3人)。そして音楽の都のオーケストラはどの都市よりもアーリア系男性からなる等質な集団であり続けている。ミステリー状況も同じくなのだろう。
しかし、本書の8人の作家の作品を読むと、いままで読んだ3人の男性作家と同じようにヨーロッパという匂いがあるのと同時に、もっとえげつない作品であることににおどろいた。
訳者が書いているように「美しき青きドナウ」に挑戦するような〈暗いドナウ〉がエーディト・クナイフルの「母なるドナウ」に描かれている。ほんとに気持ちが悪くて好きとは言えないけど深く迫ってくる。
アンナ・ヘルコヴィッツ「危険な読書の秋に」は書店で働く女性が、休暇明けに出勤してきて店に入ると、雇い主の首つり死体にぶつかる。仕事の清算をしつつ殺人者を捜し出すのだが、米英の女性探偵ミステリーとひと味違う。
どの作品もと言っていいくらいに、刑事や警官がやってくるとおしゃべりなばあさんがけむに巻く。
ぷっと笑ったのは、勝手に私立探偵の真似をして追跡中、タクシーを呼び止めて、あの車をつけてと頼むと、ここはハリウッドと違うと下ろされてしまうところ(ユーリア・マルティンス「エゥリデケの死」)。(伊藤直子・須藤直子訳 水声社 1800円+税)

2007年10月28日

ウィーン・ミステリー クルト・ブラハルツ「カルトの影」

いままで読んだ5冊の「現代ウィーン・ミステリー・シリーズ」の中では、いちばんハードボイルド私立探偵小説っぽい作品。
アードリアン、ヴァンダ、マリウスの三人は興信所を共同で経営している。真夏で外は保養地に向かう車の長蛇の列ができているのに、アードリアンはオフィスに座っている。デスクの引き出しにはエリック・アンブラーのスパイ小説が入っており、カードケースにはワイン〈ウーフドラー〉の2リットル瓶が置いてある。
ヴァンダはレズビアンの美女で空手ができて腕っ節が強く冒険が好き。マリウスはメカに強く盗聴やハッカー、車の改造が得意で知的好奇心が強い。アードリアン(語り手)はちびで、でぶで、暑い日にミステリーとワインを友にオフィスに座っているのが好きである。
今日は二人は仕事で出て行き、アードリアンだけがオフィスにいると来客があった。その男は有名な資産家キュンツルの秘書で、キュンツルの娘を捜しだしてほしいと言う。彼女はあるカルト集団に入ったという説明に「こりゃだめだ」と思わず口にしてしまうが、依頼人はかなりの額の小切手を前払いする。
夕方から外に出て映画を見てワインバーに入る。カウンターにはひとりぼっちのかわいこちゃんがいるはずなのに一人もいない。実際には一人いた、カバのような大女だ。彼女が横に座って誘うのをどう断ろうかと苦心するが、結局は彼女(大学生のクローディア)の部屋へ行く。
翌日からカルト集団について調査をはじめる。タントラについて勉強しサークルにも行ってみる。クローディアがその仲間だと知り、聞くと指導者のカタリーナはキュンツルの娘だと言う。
それからは車のタイヤを切られたり、殴られたりと妨害を受けながら調査を続ける。内務省の役人がきて免許取り消しをほのめかす。
アードリアンは役人に〈ウーフドラー〉をすすめる。彼にこの酒は禁止されているんじゃないかと聞かれるが、最近になって解禁されたけど、目が見えなくなるとかバカになると言われてたって答えるのだが、もしかしてアブサンのことかと思ったら違った。
検索結果【Ubudler:南ブルゲンランド特有のワイン。様々な雑種のぶどうを集めて造ったワイン。ビジネスではなく、伝統を重んじる意味の方が強い。】(オーストリアワインに関する用語辞典)

もういっこ、アードリアンがヴァンダにキュンツルのことをブランデッシのような男というところがあった。懐かしきハードリー・チェイスの「ミス・ブランディッシの蘭」の、ミス・ブランディッシの金持ちの父親のことね。(郷 正文訳 水声社 1400円+税)

2007年11月29日

ウィーン・ミステリー ヴォルフ・ハース「きたれ、甘き死よ」

きたれ、甘き死よ (現代ウィーン・ミステリー・シリーズ) ヴォルフ ハース「現代ウィーン・ミステリー・シリーズ」の6冊目を読み終えた。先の5冊も変わっていたけど、本書もまた違った異色のおもしろさだ。ブレナーシリーズの3作目ということだが、1作目から読みたかったなぁ。
書き方がおもしろい。主人公のブレナーの語りではなく、ブレナーをからかうように説明する書き手が別にいるのだ。慣れるまでちょっとヘンな感じがしたが、探偵が自分の言葉で書くより客観的でいい方法かとも思える。探偵が自分で言うより、探偵のこっけいなところやクセをからかいつつ説明できる。

ブレナーは警察で19年働いてクビ同然で辞め、私立探偵になったものの廃業し、シリーズ3作目のいまはウィーンの赤十字救護センターで救急車に乗っている。
ウィーンにはもうひとつ救急同盟という救護隊組織があって、両社が激しくせめぎあっている。救急隊員の仕事ぶり、彼らの性格からくる救急車の運転ぶりがおもしろい。一分一秒を争って彼らは毎日を過ごしている。最近は救護センターの仕事が救急同盟に奪われはじめていて経営者はいらつき、救急同盟が仕事を奪うために陰謀をめぐらせていると言い出し、元警官だからとブレナーに調査を命じる。
ある日、血液銀行の社長と愛人が救護員の目の前で射殺される。その次は隊員が救急車の中で絞殺され、隊員が逮捕される。そこへ殺された隊員の娘からブレナーに父の死を調べてほしいと頼まれる。

ブレナーは夕方の搬送で昔のガールフレンドのクララに出会う。二人ともずっと前からウィーンにいたことがわかる。クララは裕福な家庭の娘だったが、いまは高校の音楽教師をしている。ブレナーがそんな必要はないだろうにと言うと、【クララは微笑した。分かるだろう、この種の微笑。金持ちが貧乏人に、お金があるから何の問題もないでしょうと言われたときに浮かべるあの微笑だ。】という具合だ。クララは肝臓をやられて放射線治療に通っている。50パーセントと聞いたブレナーは胸がしめつけらる気持ちになる。
ブレナーは知らず知らずにうちに口笛を吹くクセがあった。夜中に電話して訪れたクララの家で、口笛を吹いた彼に、その曲はマタイ受難曲の「きたれ、甘き死よ」だとクララは言う。昔クララに教えてもらった曲だった。
最後のカーチェイスがむちゃくちゃおもしろい。マタイ受難曲のコラールをバックに爆走し暴力的に事件を解決してしまう。(福本義憲訳 水声社 1600円+税)

2007年12月13日

ベルリンの闇を描く5編「ベルリン・ノワール」

ベルリン・ノワール テア ドルン「現代ウィーン・ミステリー・シリーズ」全9巻のうち6冊を読んで、アメリカともイギリスとも違うヨーロッパの街と人の魅力に惹かれた。犯罪小説だから街の暗部が出てくることが多いが、底知れぬ暗さにすこしだけだが触れることができたように思う。翻訳が出ていることに感謝だ。
図書館で「ベルリン・ノワール」の文字を見つけて借りてきたのは、扶桑社から2000年に出た、ベルリンの5人の作家の作品を集めたもの。
5人の作家と作品名は、東ベルリン出身の、カール・ヴィレ「狂熱」、フランク・ゴイケ「ガードマンと娘」、ベアベル・バルケ「ブランコ」、西ベルリン出身のハイナー・ラウ「廃墟のヘレン」、テア・ドルン「犬を連れたヴィーナス」。
5人の作家がそれぞれ違っているのに、共通なものがある感じ。ウィーンの作品の湿り気の代わりに独特の猛々しさがある。
壁によって東西に分断されていたベルリン。都市近郊鉄道(Sバーン)はベルリンの東西をつなげて走っている。東出身の作家は旧東地区を、西出身の作家は西地区と、それぞれの駅を分担している。

本の順番でいくと。
「犬を連れたヴィーナス」・・・最近手に入れた犬を連れて電車に乗った女は、やはり犬連れの女性と言い合いする。その喧嘩のさまもすごいが、その犬の元の飼い主、毛皮を着た老ヴィーナスがめちゃくちゃすごい。
「ガードマンと娘」・・・警備会社から派遣されてベルリン中央駅の警備を担当しているおれの語り。駅を根城にしている浮浪者や麻薬中毒のパンクたちの中にいた少女と親しくなる。おれはナイフをポケットにしのばす。
「廃墟のヘレン」・・・ジャガーが故障している間、電車通勤をやむなくしているマルコは車中で昔の知り合いのハフナーがみすぼらしいなりをしているのを見つける。彼はベルリン自由大学で哲学を教えており、マルコの恋人は彼に夢中だった。マルコはそっと立ち去ったまま月日が経っていた。あとは電車を降りた二人の今夜の異常な出来事。
「ブランコ」・・・酔っぱらい女から盗んできた衣類や金を入れた袋をかかえて電車に乗ったブランコは、女のところへ行こうとする。かたや、レクスロード夫人は夫が不倫していると思って追求すると、不倫相手は男で、その男は夫に大金を要求している。
「狂熱」・・・大学図書館の文書保管庫で整理係をしているわたしは孤独だったが、あるとき一人の男を知る。マルティーナという女とマルテンという男とマルティンという若い男の代わりばんこの語りで進行するが、最後には悲劇が。(小津薫訳 扶桑社 1333円+税)

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