エド・マクベイン「憎悪」(エド・マクベイン編「十の罪業 Red」より)
エド・マクベイン編集の中編小説10作(Redに5作、Blackに5作)が掲載されている分厚い文庫本2冊は、エド・マクベインの呼びかけに応じて人気作家たちが書いた力作が揃っている。本書にはマクベインの序文があり、それぞれの作品の前にはマクベインによる解説がついている。
マクベインとドナルド・E・ウェストレイクを訳された木村二郎さんから本書をいただいた。それぞれ力作なので1作を読むごとに感想を書いていきます。
最初の作品はエド・マクベイン「憎悪」で、なんとこの作品が「87分署シリーズ」の最後となってしまった。
わたしは「警官嫌い」(1956)から読んでいた読者だが、60年代後半ごろにミステリから足を洗ったので、途中が抜けている。しかも復活してからはハードボイルド私立探偵小説ばかり読むようになったので、警官ものはなかなか読まなかった。読んだのは「凍った街」(1983)、晩課(1990)、「ラスト・ダンス」(2000)なんだけど、あまり覚えてなくて、「キングの身代金」(1959)「クレアが死んでいる」(1961)「たとえば、愛」(1952)、「10プラス1」(1963)のほうがよく覚えている。
なかでも「10プラス1」がいちばん好きだ。映画の「刑事キャレラ 10+1の追撃」のせいである。キャレラ刑事はジャン・ルイ・トランティニャンしかないといまも思っている。最後にバッジを捨てるところをよく覚えている。腕を伸ばして銃を撃つ姿も良かった。
途中抜けているにしても、最初と最後の作品を同時代に読んだということを自分でもすごいことだと思う。そして本書もスティーブ・キャレラとマイヤー・マイヤー刑事がいっしょに事件に当っているのに感動した。キャレラはほっそりとした長身と書かれているのが、よけいに若き日のトランティニャンを思い出させる。
事件は9.11以後のアメリカの都市で起こる。殺されたタクシー運転手はイスラム教徒である。タクシーのフロントガラスにスプレー・ペイントで青いダビテの星のようなものが描かれている。ユダヤ人のマイヤーにはいやな事件だが、彼は冷静に捜査にあたる。続けて同じ星が描かれたタクシー運転手殺人があり4人のイスラム教徒の運転手が殺される。地味な聞き込みを続け、会話の矛盾点を発見して追跡する二人の刑事。
最後のシーンがすっごくいい。
【刑事たちは——十二歳のとき以来教会へ行ったことのないカトリック教徒と、毎年のクリスマスごとにツリーを飾るユダヤ教徒は——警察署の裏口から出てきてその日の朝早くそれぞれの車をとめたところまで歩いた。明るく晴れた午後だった。】
(木村二郎訳 創元推理文庫 1600円+税)
