ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつの冴えたやりかた」
わたしはSFが苦手で読んだ本は数冊しかない。だが同居人の本棚にはたくさんのSF小説が並んでおり、おかしなことにその本棚はすぐそばにある。そこに気になるタイトルの本があった。それは「愛はさだめ、さだめは死」で、カッコいいなと手に取ったのはだいぶ前のことだが、大野万紀さんの解説を読んでぶったまげた。著者のジェイムズ・ティプトリー・ジュニアは女性だった。探検家の父と作家の母に連れられ幼いころから世界中を巡った。タフな母親から逃れるために、ニューヨーク社交界にデビューさせよう(それからイギリスに行って国王陛下に拝謁)という計画をつぶすために、知り合ったばかりのハンサム青年と駆け落ち結婚、のちに離婚。
その後はもっともっとすごい人生を送ってSF作家となるが、渋い中年男性を想定した名前のジェイムズ・ティプトリー・ジュニアを名乗る。1977年に女性だったことが明らかになりSF界に衝撃がはしる。そして1978年ドラマチックな死をとげたのだ。
手に取って解説を読んで本棚にもどすこと2回、ようやく読むつもりになった。そんなことをミクシィ日記に書いたら、SFファンのかたが最初に「たったひとつの冴えたやりかた」を読めという。
イギリスのお屋敷の物語なら読みやすいが、宇宙となると構えてしまうわたし。でも本書は「高慢と偏見」と同じように〈女の子もの〉だった。
図書館にきたカップルが“雰囲気をつかみたいので”連邦草創期の人間(ヒューマン)の本を選択してほしいと言う。主任司書はこの文書「たったひとつの冴えたやりかた」を手渡す。
物語がはじまる。
宇宙に憧れる跳ねっ返りの少女コーティーは、16回目の誕生日に金持ちの両親に小型スペース・クーペを買ってもらう。その宇宙船を改造して燃料タンクを満杯にし、管理をうまくごまかして出発する。冷凍睡眠するフタを閉めるのは、昔の地球の子どもたちがクリスマスの朝に目を覚ますのを楽しみにして眠りにつくのとよく似ていると彼女は思う。
二度目の冷凍睡眠から目が覚めたとき、彼女のうしろの頭上から声が聴こえるがなにも見えない。独り言を言ってるのかと思ったが、そうでなくて「あなたの言語機関を使ってます」という声が自分から聴こえる。コーティーの頭の中にシロペーンという少女がいるのだ。
生きて帰ることができないとわかり、ヒューマンのコーティーとエイリアンのシロペーンは「たったひとつの冴えたやりかた」を選んで宇宙の彼方へ飛んでいく。
この物語の次にまた図書館から出された文書として「グッドナイト、スイートハーツ」「衝突」がある。どれも若い女性の生きかたがすがすがしい。〈女の子〉ものではあるが、少し頭を宇宙に向けなければならないのが、SFになじみのない者としてはしんどい。映画「エイリアン」の記憶がすごく想像の助けとなった。
(浅倉久志訳 1987年発行 ハヤカワ文庫 500円)