読み終わってつくづくサラ・パレツキーの〈カンザス〉への想いに満ちた作品だと思った。最初に目次の前にある〈背景〉を読んだときは、あっ、そうだったんだと改めて「血を流すカンザス」(BLEEDING KANSAS)という言葉を噛み締めた。でもそのときは表面的にしかわかっていなかった。作品を読み進むにつれてサラ・パレツキーのカンザスへの想いがずしんと伝わってきた。
カンザスで農業に生きる4家族の物語で、それぞれの宗教や考え方に従って生活しているが、ニューヨークからジーナが移り住んだことから波乱が起きる。
物語の中心になるグルリエ家はフランス系で、ジムとスーザンの夫婦と息子のエティエンヌ(チップ)と娘のラーラ(ルル)。プロテスタントの教会に属していて、スーザンは反戦論者であり、農業改革にも積極的な活動家。ジムの兄のダグはカンザスから離れてシカゴで弁護士をしている。
シャーペン家は祖母のマイラと父親で保安官助手のアーニー、息子のジュニア(アメフト選手)とロビー(ギターを弾く)。2人の母親は家を出て行き、マイラは嫁憎しの気持ちからロビーを虐待している。進化論を否定する宗派〈イエスの血による救済聖書教会〉に属して信仰が厚い。
フリーマントル家は当主が死亡してから廃屋になっていたが、遠縁のジーナがニューヨークから移り住む。彼女はレズビアンとうわさされている。
バートン家はクレムとアーディス夫婦と息子のエディと娘のシンディ、クレムの弟の5人家族。エディは発達障害のようで、ジュニア・シャーペンに従っている。
ロビーは早朝に起きて牛の乳搾りをさせられている。ある日、彼が世話をしている赤毛の雌牛を見に3人のユダヤ人がやってくる。彼らはエルサレムに神殿を建てたいと願っていて、生贄の儀式は整い、あとは生贄になる牛を探していた。完璧な雌の子牛を殺して灰を使うというのだ。ロビーは厳重に育てるように言われる。そしてこの牛を女性が見ることは許されない。たくさんの人々が雌牛を見るためにやってくる。マスコミもくる。
ジーナは友人を呼んで篝火を焚いて夜中に集会を開き踊り騒ぐ。プロテスタントの教師レイチェルは、彼女らは70年代の「血を流すカンザス」の再現を期待しているのだと言う。
常々お互いに嫌悪し合っていたそれぞれの家族が、雌牛の騒動と篝火の集会を機にぶつかり合う。クライマックスがみごと!
そして最後に解決したものとしないものがある。グルニエ一家は失うものが大きかったが、それでも春がくる。ロビーとラーラの恋がういういしい。
サラ・パレツキーはカンザスについて書ききったと思う。(山本やよい訳 早川書房 2300円+税)