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ヘニング・マンケル アーカイブ

2005年05月31日

ヘニング・マンケル「殺人者の顔」

海外ミステリに関しては自分ではちゃんと目配りしていると思っていた。嫌いなのとか苦手なものだって、作品名や作家名はちゃんとおさえているつもりだった。これっていつごろまでのことかしらね。
数日前にいただいたUさんからのメールの追伸に、お連れ合いのYさんからの伝言があった。「ヘニング・マンケルをごぞんじでしょうか?」スエーデンの警察小説作家でYさんはとても気に入っているそうな。「わっ〜存じませんでした。さっそく読まねば。」と返事をしてネットで調べて、土曜日のVFC例会前に本屋に行った。「殺人者の顔」「リガの犬たち」「白い雌ライオン」と3冊あったのでまず2冊を買った。それから読み始めて1冊目を読み終ったところである。おもしろかったので今日出かけたついでに3冊目も買ってきた。
第1作はスエーデンで1991年、翻訳は2001年、ちょうど発表されてから10年目に訳されている。主人公クルト・ヴァランダーは中年の刑事で妻と娘が一人いるのだが、少し前に二人に去られて孤独な生活を送っている。アメリカやイギリスの警察小説の主人公たちと似通った境遇で、事件解決に向かう意気込みもねばりもよく似通っている。違うのはスエーデン南部地方の町なので、まずものすごい寒さがわさわさと伝わってくる。殺人があった農家の隣人が異変に気づく明け方の寒さの描写に一気に惹き込まれた。
ページをめくるにしたがってスエーデンは長く移民を受け入れてきたことがわかった。同時に移民に対する反感も根強くあるということもわかった。被害者が言い残した「外国の」という言葉と外国人らしい縄の結び目という手がかりを反移民感情を配慮して隠していたのに、マスコミが聞き込んで流したために、移民逗留所が燃やされ、関係ない罪なきソマリア人が散弾銃で殺されるという事件も起こる。
クルト・ヴァランダーはあんまりかっこよくない。妻に去られた淋しさに耐えられないし、街で見かけた娘を思わず尾行してしまうのだ。唯一オペラが彼を慰める。
久しぶりでシリーズものの魅力にはまった。3冊目はものすごく厚くて普通の倍以上ある。読むのはたいへんだけど楽しみも倍以上あるだろう。(創元推理文庫 1000円+税)

2005年06月01日

北欧からの風

昨日書いたヘニング・マンケル「殺人者の顔」は、訳者や解説者によると世界的なベストセラーで、35もの言語に訳され全世界で2千万部の売上げだという。それだけの力量のある作品だと1作しか読んでないけど思った。シリーズ9作を全部訳してほしいなぁ。
わたしが惹かれるのは警官にせよ私立探偵にせよ、悪に対する強い正義感を持ち、自らの体を張って捜査を続ける姿を描いた作品だ。そこに作家の真摯な思想を読み取る。作家が徹底的に主人公に寄り添い、その痛みや喜びを読者がいっしょになって感じ取る。問題は「主人公」=「私」がなにを考えどう行動するかなのである。作家が作品全体の上から見おろし、客観的に書いている作品なんてもう読む気がしない。わたしはなにを書いたとしても「私」の言葉しか書けないし書かないとはっきり思った。
北欧から小説の新しい風に吹かれたところだが、ジャズも北欧から新しい風が吹いてきているという。こちらのほうもしっかり聴いていかなければ。

2005年06月11日

ヘニング・マンケル「リガの犬たち」

ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダーシリーズ2作目。読みたくてしかたないのだけれど、字が細かいので字の大きい本を間に入れて目を休め、満を持して読み始めた(うー、オーバーね)。
スウェーデン南部の海岸にゴムボートがひとつ流れ着いた。中には高級なスーツを着た男の死体が2体横たわっていた。イースタ警察の警部クルト・ヴァランダーが男たちの身元を調べはじめると、彼らはラトヴィア人だという連絡が入った。そして調査のためにラトヴィアのリガからリエパ中佐がやってくる。一見地味な人間に見えたリエパ中佐だが、仕事のできる鋭い人間だとわかり、いっしょに仕事しているうちに友情が芽生える。家に呼んでウィスキーを飲みながらオペラのレコードを聴くところがよい。
仕事が終わってリガに帰ってすぐリエパ中佐が殺される。そして協力を求めるテレックスがきて、クルト・ヴァランダーは出かけることになる。
そこからが迷路、いまから10数年前の東欧の混沌とした社会状態の中で、自由を求めて生きる人たちと抑圧する権力が描かれる。一度は終わった調査を納得できず、今度は休暇をとって密入国し、リエパの妻バイバと残されたはずの書類を見つけようとするが、その間に協力者が無惨に殺される。
バイバ・リエパの言葉「いつだって考えなければならないわ。もし忘れたら、わたしたちは人間であることを忘れるのと同じです」に胸をうたれた。
「あとがき」に訳者の柳沢由美子さんが、スウェーデンの日刊紙のインタビューでヘニング・マンケルが語ったことを紹介しているが、最後のところ「いまは娯楽として、軽い読み物として、純文学とは一線を画して読まれている推理小説が、時代を描写するもっとも適切な文学のジャンルとして認められる日がくるという予言である。」というのには、まったく共感する。(創元推理文庫 1020円+税)

2005年06月23日

ヘニング・マンケル「白い雌ライオン」プロローグ

1918年、南アフリカはヨハネスブルグのカフェに3人の若きボーア人が集まり話している。ボーア人とは本書の解説に「南アフリカ共和国のオランダ移住民の子孫。現在では通例アフリカーンズと呼ばれる」とある。
ボーア人のことをわたしが具体的に知ったのは「パワー・オブ・ワン」(1993)というアメリカ映画だった。1930年代、南アフリカ生まれの孤児のイギリス少年が音楽を学び、刑務所の囚人のコーラスを指揮するようになる。そして囚人のリーダー(モーガン・フリーマン)からボクシングを学び、黒人選手と闘うことで人種差別に反対する考えを伝えようとするようになる。そしてボーア人指導者の娘と恋をして、父親の反対を押し切ろうとがんばる。このときはイギリス人さえ差別の対象だった。青年の成長物語と南アフリカの政治や歴史がわかり、アフリカの呪術やまじないが土地の自然に根ざしているということもわかる映画だった。
最初にプロローグを読んでもなんのことかよくわからない。物語の最後まで読んでようやく、ここでマンケルがなにを言いたかったかがわかった。1990年、ネルソン・マンデラが30年近くの投獄生活から釈放されたとき、記録はないけれども、ボーア人はそれを立派な宣戦布告として受け取ったと書いてある。
物語の感想は明日。

2005年06月25日

ヘニング・マンケル「白い雌ライオン」

はるか南アフリカでの過去のできごとが記してあるプロローグのあと、物語はスウェーデンのイースタではじまる。金曜日の夕方、不動産業者の女性ルイースが仕事帰りに、家を売りたいという電話があったところへ行く途中、道を尋ねようと一軒の農家に立ち寄る。出て来た男はいきなりピストルを出しルイースを撃つ。月曜日の朝、イースタ警察署に出勤してきたクルト・ヴァランダー警部に、ルイースの夫ローベルトは妻が行方不明であると届ける。捜査をはじめると、ルイースが行こうとした家の近くにある家が爆発事故を起こし、燃えかすの中から黒人の指が見つかる。なんでこんなスウェーデンの田舎に黒人の指があるのか。爆発の無線装置はロシア製だった。次の章は南アフリカの殺し屋マバシャの登場となる。マバシャは雇い主のボーア人ヤン・クラインから大物暗殺の指令を受けて、スウェーデンに入国し、元KGBの諜報員コノヴァレンコから銃の訓練を受けることになる。
このように、スウェーデン、ロシア、南アフリカの3カ国の人間がからむ殺人事件があり、その後は南アフリカの政治事情がからんでくる。狂信者ヤン・クラインを追いつめようとするデクラーク大統領から任命された若手検事シバースの執拗な動きがある。コノヴァレンコをどこまでも追いつめるヴァランダーの執念。長い小説なのに息もつかせず読ませるのだから呆れてしまう。(創元推理文庫 1500円+税)

2005年06月27日

クルト・ヴァランダー警部

ヘニング・マンケル「白い雌ライオン」について、プロローグと本編の内容の紹介を書いたけど、魅力ある主人公クルト・ヴァランダー警部についてを書き忘れていた。
スウェーデンの南部スコーネ地方の小さな町イースタの警察に勤務するクルト・ヴァランダー警部は妻のモナに去られ、娘のリンダとの間もうまくいってない。画家の父親はクルトが警官になることに賛成しなかったせいもあり、ずっとぎくしゃくした関係が続いている。3作目ではかなり状況がよくなる、というのは、リンダが事件に巻き込まれ、その経過から父親がクルトの気持ちをわかるようになるから。
1作目「殺人者の顔」では、新しく赴任してきた女性検事に思いをよせてふられている。2作目「リガの犬たち」では、ラトヴィアから捜査にやってきた警官リエパ中佐が帰国してすぐに殺される。いっしょに捜査した事件のためにラトヴィアまで出張して、亡きリエパの妻バイバに会うと一目惚れ状態なり、帰国してからも事件とともにパイパが忘れられず、おせっかいにも国境を越え密入国してバイバとともに闘うことになる。3作目「白い雌ライオン」では、なにかにつけパイパを思い出し、手紙を書いたり電話をしたり泣いたりする。
いちばんの趣味はオペラで、特にマリア・カラスが好きで車の中でも家でも聴いている。若いときはオペラ歌手を目指す友人のマネージャーをしようと思ったくらいである。二人の夢は実らなかったが。
まだ若い警官のとき、町をパトロールしていて酔っぱらいの男に肉切り包丁で刺されて切りつけられた。あと数ミリの差で死ぬところを助かったのだが、23歳にして警官になるということの意味を悟った。そのときに自分で考えた箴言〈死ぬのも生きることのうち〉を常々思い出している。ちょっと変わった警察官クルト・ヴァランダー警部であるが、関わった事件は死を賭して追いかける。
解説を読んだら、ヘニング・マンケルの三番目の妻はスウェーデン映画の巨匠イングマル・ベルイマンの娘で劇場の専属演出家だそうだ。なんとなく納得。

2005年10月24日

ヘニング・マンケル「笑う男」

笑う男 ヘニング・マンケル北欧の(そしてヨーロッパの、世界の)いまという時代をこんなにぴたりと表現した作品は他に知らない。ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダーシリーズ4作目である。前作「白い雌ライオン」で、ヴァランダーは事件解決のためにやむなく人を殺すことになってしまった。そのトラウマで無気力になり酒浸りになり、仕事になかなかもどれない。ついに警察を辞める気になったとき、知り合いの弁護士が静養先まで訪ねてきた。同じ弁護士の父親が交通事故で死んだのが納得できないから調べてほしいと言う。この依頼を断った後、辞職届を出すためにイースタにもどったヴァランダーが知ったのは、訪ねてきた弁護士がなにものかに銃殺されたことだった。
辞職するためにきたと思った署長らに復職すると告げて、ヴァランダーは捜査をはじめる。父親のほうが最後に訪れたのは、スウェーデンだけでなく国際的に活躍する実業家が住むファーンホルム城だった。古城に出かけたヴァランダーは笑いを絶やさない城主と警護のものものしさにおどろく。
極秘裏に城主の背景を短期間で調べあげる刑事たち、新しく配属された女性刑事アン=ブリット・フーグルンドと組んで、捜査に出かけるヴァランダー、とてもいい感じで読んでいける。
本書の犯罪は少し前までは考えられなかったものである。今も昔と変わらず金持ちのために貧乏人が搾取されるわけだが、そのやり方がより残酷になった。そして、勤勉であった普通の人たちにも変化が現れる。フーグルントとの会話「・・・犯罪が残酷になった。より組織的になった。また、以前われわれがいわゆる善良な市民と見なしていた人々の中に犯罪をおこなう者が出てくるようになった。・・・」この状況はスウェーデンだけではないと思う。

2007年04月09日

ヘニング・マンケル「目くらましの道」上巻を読み終わる

目くらましの道 上 ヘニング・マンケル解説を先に読んだら、スウェーデンの作家で日本の読者が思い出すのはアストリット・リンドグレーンの「長くつ下のピッピ」、ニルス・ホルゲンソン「ニルスのふしぎな旅」だろうとあって、マンケルは二人の名を冠した賞を受賞していると続いている。いま日本ではミステリ作家として人気を博しているが、本国ではミステリの分野に限定されず、広く評価されている作家なのだ。

クルト・ヴァランダー警部はイースタ警察署で働いているが、スコーネ地方というスウェーデンの最南端で、イースタはそこでもいちばん南の海岸沿いにある。第1作からスウェーデン国内の犯罪だけでなく、諸外国との関わりのある犯罪と関わることになる。
シリーズ第5作になる「目くらましの道」も、出だしは1978年ドミニカ共和国での男と女の結びつき、父の娘への愛が悲痛にまで描かれている。それから舞台はスコーネに移って、菜の花畑での少女の死となり、その後は恐るべき連続殺人の幕開けである。

ヴァランダーの部下のアン=ブリット・フーグルンドはイースタ署初の女性刑事である。警察学校を優秀な成績で卒業して出身地イースタで働くことになった。他の刑事からは煙たい存在だが、ヴァランダーは彼女を信頼し頼りにしているし、彼女もヴァランダーを見習っている。イアン・ランキンのリーバス警部シリーズでも最近はシボーン刑事が活躍する場面が多い。ピーター・ラヴゼイのダイヤモンド警視シリーズにも、ヘンリエッタ・マリン主任警部という葉巻をくゆらす女性警部が出てくる。いろいろと比べながら読むのも楽しみ。
ヴァランダーは恋人(「リガの犬たち」で出会う)のパイパと下巻で会うことができるだろうか。

2007年04月18日

ヘニング・マンケル「目くらましの道」

目くらましの道 上 ヘニング・マンケル目くらましの道 下 ヘニング・マンケルドミニカ共和国での恋物語からはじまり、愛する妻が死に、残された幼い娘に父親が誓う。娘にはおれたちのようなみじめな暮らしをさせないようにすると。
そして時間がとんで、スコーネでは戦闘状態に変身した一人の男が斧とナイフを持ち裸足で出発する。
クルト・ヴァランダー警部は農夫からの通報を受け取る。彼の菜の花畑に挙動不振な人間がいるという。その畑へ行くと少女がいて彼が声をかけると少女は自分に火をつけて自死してしまう。ガソリンがまいてあったのだ。ヴァランダーはやり場のない気持ちで捜査にあたる。
その真相もわからないままに、今度は元法務長官が斧で殺され、頭皮を剥がされるという奇怪な事件が起こる。連続殺人事件の幕開けである。次の事件は夏至祭のパーティ最中に行われた。被害者は大金持ちの画商で、やはり頭を割られ頭皮をはぎ取られていた。
ストックホルムから犯罪心理学者エクホルムが呼ばれ分析をはじめる。次もあるだろうという意見である。地道な調査をしていく以外ないと聞き込みを続けるヴァランダー警部だが、父親が認知症と診断されたと言いにきてショックを受ける。そして次の事件が起こる。第三の殺人は経済犯罪で有名な公認会計士で、火のついたオーヴンに頭をつっこまれていた。第四の殺人は配水管工事のための穴に死体があり、彼は塩酸で目を潰されていた。今回だけはいままでの被害者と違って権力者ではなく、犯罪のパターンが違う。
連続殺人を追いながら、ヴァランダーは菜の花畑で死んだ少女を忘れない。以前の作品と同じように、関わりがないと思われていた少女と権力者の死が結びついていく。

心理学者の役割は分析することだけでなく、ヴァランダーと事件について話し合う、またはヴァランダーの話を聞くという仕事もあるのがわかった。
そしてまた、ヴァランダーが最後にはっきりわかったと思ったのは、事件をとおして男性支配社会がはっきりと見えてきたことである。最後まで読まないとわかりにくいけど(最後まで書くとネタバレと言われるので書けないが)。
最後にドミニカ共和国が物語に結びつく。ショックだ。
事件を終えて、ヴァランダーは「リガの犬たち」で出会ったパイパをようやくコペンハーゲンへ出迎えに行く。
女性二人がいい感じ。部下のアン=ブリット・フーグルンドと、最後になって転勤してきた署長リーサ・ホルゲソン。次の作品が楽しみだ。

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