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ドナルド・E・ウェストレイク アーカイブ

2005年01月21日

木村二郎さん訳 ドナルド・E・ウェストレイク「聖なる怪物」

ダークなユーモアに戦慄させられた「斧」「鉤」に続く文春文庫のウェストレイクもの3作目である。「80年代の伝説の名品、ついに翻訳成る!」と帯に書いてある。
今回の舞台はハリウッド。アカデミー賞に輝いた大スター、ジャック・パインは豪邸の中庭でインタビューを受けている。小ぎれいだがさえない男が手帳と鉛筆を用意して待っている。ジャックが16歳のときの出来事から話が始まり、各章が「フラッシュバック」と分けられて1から27まで続いていく。各章が映画の1シーンのようになっていて読みやすい。
保育園で出会った親友のバディーはジャックをいつもリードしていて女の世話もする。ジャックは学校の演劇で役になりきる才能があるのがわかる。21歳の二人は別々のバスに乗り、ジャックはニューヨークに行く。俳優の道を進んでいるとき、海兵隊からもどったバディーがやってきてそれからの生活にからんでくる。結婚、ハリウッドでの成功と話を進めていくうちに、ジャックはぼーっとなり、その度に召使いが飲み物やクスリを飲ましにくる。スターは召使いや会計士などたくさんの人を率いた軍団のボスだとジャックは言う。
何度かの結婚と離婚など、ここで書きたいことがいっぱいあるのだけれど、それは読んでのお楽しみ。わたしは二度目のインテリの奥さんが好きだ。そしてジャック・パインにマーロン・ブランドを当てはめて読んでいた。もちろん本物のマーロン・ブランドにこんなことはあるはずないけど、ハリウッド大スターの感じが似ているような気がする。最後までおもしろく読めて、結末にあっと驚く。往年のハリウッド映画が好きな人には、こたえられないおもしろさがあると思う。献辞だっておしゃれ(わたしにはわからない人もいて解説を読んでわかったのだが)。
相変わらず木村仁良さんの解説が楽しい。ウェストレイクがリチャード・スタークという別名で書いた「悪党パーカー/人狩り」が映画化されたのが「殺しの分け前/ポイント・ブランク」なのだが、わたしはこの映画を封切りで見たのが自慢なのである。リー・マービンとアンジー・ディキンソンが出ていて、ものすごくスタイリッシュな映画だったが、そのことも書いてある。またここで知ってうれしかったのだが、ウェストレイクはアメリカ私立探偵作家クラブから去年10月に功労賞をもらったそうだ。タッカー・コウ名義で書いた「刑事くずれ」シリーズが功を認められたのだろうか、と書いておられる。このシリーズ大好きで大切に持っているのでうれしい。(文春文庫 714円+税)

2005年02月17日

木村二郎さん訳 リチャード・スターク「悪党パーカー/電子の要塞」

「悪党パーカーシリーズ」の20作目。最初の数冊をおもしろいぞと父親がくれたのを読んだのがはじまりだった。その後東京在住の弟に会ったとき、これはおもしろいから読めと言われて、とうに読んでるわいと返事したことがあるが、その弟は早死にしてしまった。いまはその娘が古本屋を探しまわってけっこうな値段で買っているらしい。今回も「電子の要塞」買いましたよとメールがきた。
なんで強盗の小説がおもしろいんだろうと考える。まるで鬼平さんが強盗になったみたいなパーカーである。頭が良くて、気が利いて、体が頑丈で、意志が強い。そして非情である。まんまハードボイルド。同じハードボイルドでも私立探偵のようにセンチメンタルなところがない。
さて、「電子の要塞」は出だしからすごい。【電話が鳴ったとき、パーカーはガレージで男を殺しているところだった。】、ようやるわ、としか思いようなく読み出すと、すぐに仲間から電話がかかり、仕事を一緒にやらないかと誘われる。いい感じ。無駄がなくスピードがある。仲間に会いに行くのに、殺した男が持っていた名前とクレジットカードを使う。パーカーは当面の仕事をすませてから加わると言い、殺した男の背景を探ってひとつひとつ潰して行く。丹念なプロの仕事である。
今回は題名のように、相手は“ドット・コム業界”で大金を儲けて世界のあちこちに屋敷を持つ大金持ちである。その“電子の要塞”を破るための頭脳が必要だが、仮出所中のエレクトロニクスの専門家ロイドが加わる。ロイドの心理状態に納得させられたし、強盗される側は同情できないように書いてあるし、最後はうまくいくとわかっていてもはらはらしてしまうし、うまい職人芸に堪能させてもらって満足して終わる。最後の悪党どうしの少ない言葉のやりとりにほろりとするものがあった。
パーカーってやっぱり魅力がある。いま映画にしたら役者は誰がいいかなぁ、おれへんなぁ。メル・ギブソンは似合えへんかった。また《殺しの分け前/ポイント・ブランク》を見たくなった。35年も前に見た映画で、数年前からはビデオで何回か見ているが、リー・マーヴィンとアンジー・ディキンソンよかったなぁ、とまた言っております。(ハヤカワ文庫 760円+税)

2006年08月16日

木村二郎さん訳 ドナルド・E・ウェストレイク「バッド・ニュース」

バッド・ニュース ドナルド・E. ウェストレイク泥棒ジョン・ドートマンダー シリーズの長編10冊目である。解説によると7作目以外は全部訳されていて、わたしは全部読んでいるから長い愛読者だ。ウェストレイクは名前を変えて違うシリーズを書いているが、リチャード・スターク名義の「悪党パーカー」はドートマンダーより好きだったし、タッカー・コウ名義で書いている私立探偵もの3册も何度も読んでいる。こう書いていると読みたい思いがつのってくるが、押し入れから探し出すのがやっかいだし、未読の本が山積みなので当分はがまんだ。
それだけでなく単発の作品で「斧」というのがある。(2001年2月28日に感想を書いています。)これにはおどろいた。
「バッド・ニュース」は序文のような最初の泥棒仕事の話があって、ドートマンダーが機知を働かせて捕まるのを免れるところがおもしろい。そして本仕事に突入する。大胆なアナスタシア作戦で、いろいろと困難と危機を乗り越えていく。こうまでやるくらいなら普通に働いたほうがどんなにラクか(笑)。あとは読んでのお楽しみ。
ドートマンダーは泥棒が本職なのだがどこか生真面目で憎めない。同居しているメイはスーパーマーケットでレジ係をしている。彼が無事で逃げおおせたということ自体が彼の昨夜の大成功で、盗品は持ち帰らず体だけ持ち帰った。だからメイは仕事を辞めない。二人の仲が自然でしっくりくるところがよい。また仲間たちもおもしろい。ケルプが明日は病院へ行かなきゃならないのは、どこか悪いのではなくて、カノジョを乗せて田舎へ行く車(特に医者の車がお気に入りで盗む)が必要なだけなのだ。スタン・マーチとマーチのママの活躍にも満足した。
訳者解説「墓穴を掘った泥棒」の最後に〈そして、一番のいい知らせは、ウェストレイクがあなたと同時代に生きていることである。〉とあった。同感です。こんなアホらしく楽しい小説を読めて幸せ。(ハヤカワ文庫 880円+税)

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