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S・J・ローザン アーカイブ

2004年03月30日

S・J・ローザン「苦い祝宴」

女性私立探偵小説を読んだのは久しぶりで、とてもおもしろかったけれど、文字が細かい上にやけに長くて、えらく時間がかかってしまった。今日は最後の追い込みとばかりに読み続け、ようやく12時5分前に読み終わった。あわてて読んだので結末のあれこれで理解しにくいところがある。最後のところを明日読み直さなくちゃ。
女性作家S・J・ローザンの、中国人女性探偵リディア・チンと白人男性探偵ビル・スミスの物語の5冊目である。1作ごとに主役が入れ替わるのだが、今回はリディアが主役でビルが助手になる。
全体の印象は映画「イヤーオブザドラゴン」であった。ミッキー・ローク扮するニューヨークの刑事が、中国人の闇世界の新しい実力者(ジョン・ローン)を追いつめていた。あれはすごい映画だったなぁ。あの映画でわたしはミッキー・ロークにめろめろになったのであった。
リディアはニューヨークのチャイナタウンで、子どものときからの友人である弁護士ピーター・リーに、失踪した中国人労働者4人を探してほしいと依頼される。ピーターの婚約者メアリー・キーは敏腕の刑事で、危険なこの事件にリディアが首を突っ込むのをやめさせようとするが、それで引っ込むリディアではない。探っているうちに、ピーターが爆破事件にまきこまれて大怪我をすると、よりいっそうはまりこんでいく。
なぜかチャイナタウンの大物H・B・ヤンがリディアに声をかけてきて、失踪人を探すように依頼する。彼の経営する中華料理店〈ドラゴンガーデン〉の飲茶売りになって、店内の様子を探っていくうちに、失踪人には麻薬の密輸がからんでいるらしく事件は複雑になっていく。
小柄なリディアが、さまざまな権力を持つ男たちを相手に、一歩も引かずに頑張る姿を見るのが心地よい。早く結婚しろとこうるさい母親が最後に友人へ電話しているのを聞いて、リディアは元気になる。母親はこう言っていた。表彰されてテレビに映ったメアリーのことを「あんなふうにテレビに映されちゃうのは考えものだわね。反対に差し障りなく仕事を続けることができるように、表立たないでひっそりしているってのは見上げたものよ」。リディアには「仕事を続ける」と母親が言ったことが、春の夜に温かみを添えたように思えた。(創元推理文庫 1000円+税)

2005年10月07日

S・J・ローザン「春を待つ谷間で」

春を待つ谷間で S.J. ローザン先日小児科医の山田さんとお話したとき、ミステリーの話になって、山田さんは男性が書いた女性が好きだとおっしゃった。わたしは常々女性が書いた男性が好きと言っている。わたしの好きな女性が書いた男性は,ピーター・ウィムジー卿(ドロシー・L・セイヤーズ)、モレル(サラ・パレツキー)、ジェイクとマローン(クレイグ・ライス)、その他大勢いる。「御宿かわせみ」の東吾さん(平岩弓枝)も好きだ。
S・J・ローザンの作品は女性のリディア・チン、男性のビル・スミスの2人が交互に主人公になり、もう一人が協力するというかたちになっている。リディアはもちろん好きだけど、ビルはもっと好き。やはり女性が書いた男性私立探偵である。
今回はビルがアップステート・ニューヨークに持っている山小屋の近くに住む女性イヴに、仕事を頼まれて訪れるところからはじまる。解説にアップステート・ニューヨークという土地について書いてある。バーバラ・クーニーの絵本にニューヨークの山奥の労働者を描いたのがあるのを思い出した。イヴは農場を持っているが、実はものすごく高名な画家で、夫を事故で亡くしてから名前を変えてここで暮らしている。仕事は物置にしまってあった絵が盗まれたので、秘密に探してほしいというものだった。そこへ旧知の酒場の地下室で死体が発見される。相次ぐ殺人と盗難がからみあって複雑なストーリーだ。後半リディアが登場し山場となる。
読んでいてやっぱり一人称の私立探偵小説はええなぁとため息をついた。タイトルとカバーの絵をなんとかしてほしいなぁ。こんなもんで女性読者が増えると思ったら大間違いだ、とわたしは思う。リディアとビルのシリーズ6作目。(創元推理文庫 1000円+税)

2006年12月06日

S・J・ローザン「天を映す早瀬」

天を映す早瀬 S・J・ローザン私立探偵リディア・チンとビル・スミスが活躍するハードボイルドミステリーの7冊目。最初読んだときから気に入っていたが、ずっと緊張が持続していて進歩しているところがすごい。
一作ごとに語り手が交代するが今回はリディアの番である。父親の親友でリディアも子ども時代から親しんできた薬種店を経営するガオおじいさんの依頼で、香港へ行くことになる。父とガオとウェイ・ヤオシーの3人は子どものころからの親友だった。父は亡くなったがガオはいまもリディア一家を見守ってくれている。依頼は最近亡くなったヤオシーの遺品の翡翠を香港の息子に届けてほしいというもので、ビルもいっしょに行くという条件である。ヤオシーはニューヨークと香港に家庭を持ち、それぞれに息子がいる。妻どうしはそれを知らずに早く亡くなっている。なぜ遺品を渡すだけに二人が行くのか、疑問に思いながら香港に到着し、息子のスティーブンの家に着くと、無人で家の中が荒らされており、妻と7歳の息子とフィリピン人の子守りがいない。弁護士とともに帰ってきたスティーブンは妻たちは来客用の菓子を買いに行っただけだという。そこへ電話があり子どもが誘拐されたとわかる。
リディアとビルは香港の闇社会を相手に、香港警察のマークと協力することになるが、マークは昔ガオおじいさんのところでいっしょに遊んだ少年だったとわかる。ビルが子守り女と連絡がついて一人で乗り込むが、悪漢につかまり暴力を受ける。それを知ったリディアは走る。マークは闇社会の捜査をしながら二人を援護する。リディアとマーク、ともに戦った二人の間には微妙な感情が生まれる。最後が哀切なんだよね。
それにリディアとビルはどうなるのだろう。香港の一夜でなく未来に続く関係を求めるビルと「それは約束できないのよ」というリディア。「わかっている」とビル。(創元推理文庫 1160円+税)

2006年12月07日

S・J・ローザン「天を映す早瀬」でよかったところ

天を映す早瀬 S・J・ローザン昨日に続いてS・J・ローザン「天を映す早瀬」のよかったところをあれこれ。
リディアとビルは二人で行ってくれと頼まれて香港へ行くのだが、「他人の金で地球の裏側まで旅をしてホテルで君と一週間過ごす」とビルがふざけると、部屋も階もホテルも別よとリディア。ビジネスクラスで豪勢に香港に到着する。
頼まれた遺品を届けに行った先で子どもが誘拐されたところに出くわす。ビルはフィリッピン人の子守り女マリアの線を追う。居所を知らないというマリアの妹に彼は繰り返し言う。「自分が属していないところ、困ったときに頼る人のいないところで暮らす気持ちはよくわかる。マリアが連絡してくれたら相談に乗る」。その言葉を聞いてリディアは言う。「わかるんだ。そうなのね?」「なにが?」「自分の属していないところで暮らす気持ちが」。ビルはそういうことがわかる人なのである。
次いで、ガオおじいさんの言葉。リディアが幼い日に薬種店の店先で陶壺の中を見たがってバタバタしている。母親が恐縮すると、ガオおじいさんは【せっかちに動きまわる人間はありとあらゆるところにすぐに行き着く。ありとあらゆるところへ行ったあげく、しまいには動く必要がまったくなくなるのさ】これってなんだか自分のことを言われているよう。
事件がおおかた片付いて、リディアとビルとマークは三人で食事をする。【そのとき卒然と悟った。過去とは長いものだが、未来はそれと比べ物にならないくらい長い、と。・・・さあ、リディア、とにかく食べて、現在とは短いものなのだから。・・・】そうそう、とにかく食べましょう。

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